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荘厳なる少女マグロ と 運動会

 石が二つ、宙に浮かんでいた。




 石は宙で

 ――同じ位置に留まり…

 回転していた。




 回転が止まった。




 そして――




 石は落下を始める。




 ただ

 ――石が地面に到達する間に……


 先に落下した選手の身体は

 ――"マグロ" の目の前

 ――少し離れて

 地面に

 ――強く

 叩き付けられていた。




 身体が


 床に接触した衝撃で………――


 少し撥ねた。




 それから――


 身体は

 エラスティックな地面に

 沈み込んだ。




 床は、選手を少し包んだ。




 解放した。




 音はなかった。




 衝突が終わっても……――床は波打っていた。




 波が "マグロ" の足元に来た。




 その、落下した選手は

 ――柔らかな地面

 同じ場所に

 ただ――




 横たわってはいなかった。




 スペースリンクの端まで

 ――横たわったまま

 転がって行った。




 上空では、二つの石が、落下を続けていた――


 垂直に。




 その他の”重力スケート”の選手達は、

 石を避けながら

 滑っていた。




 何事もなかったかの様に。




 石は落下を続けていた。




 その速度は


 「ゆっくり」


 だった。




 まるで、


 水の中を沈んでいくよう


 だった。




 そして

 ――石が落ち切る前に

 リンクの隅まで転がって行った選手は

 起き上がる。




 何事もなかったかの様に。




 地面に立っている "マグロ" と視線が会った。




 声はかけない。




 ライバルなのだ。




 二人の年は離れているのだが、

 二人とも競争心を強く持っていた。




 会釈だけして、選手は落ちていく石の方へ近づいて行った。




 そして、地面に極めて近い位置に来た石の上に乗った。




 そのまま上空へ浮かび上がって行った。




 その選手が飛び上りきるのを見届けず、

 "マグロ" は

 胸に抱いていた二つのストーンを

 ――無造作に

 放り投げた。




 石は

 ――弧を描きながら

 下に落ちていった。




 ただ、地面には接触しなかった。




 石は、宙に浮いていた――


 地面すれすれで。




 浮いたまま、自転していた。




 "マグロ" は、

 等加速運動を続ける石に

 近づく。




 そして立つ…


 ――二つの石の上に、両足を掛けて。




 それも――爪先立ちで。




 ただ――バレエのトウではない。




 "マグロ" が

 足の裏の限られた領域だけを乗せても

 石は

 ――宙に

 浮いたままだった。




 "マグロ" も――宙に浮いたまま。




 "マグロ" は

 ――足の位置を動かしながら

 石の状態を調べた。




 終わると

 ――宙に浮いた状態のまま

 中腰になり、

 踏ん張る様にして

 力を入れる。




 身体がさらに浮かび上がって行った。




 エレベーターの様に――垂直に。




 "マグロ" は

 スペースリンクの中

 練習する者が少ないスペースを見つける。




 滑る様に、到達する。




 "マグロ" が、

 背筋を伸ばし

 直立姿勢になると

 ――もうそれ以上

 身体は上昇しなかった。




 "マグロ" は

 ――同じ場所に立ったまま

 足を前後に動かす。




 軸足を交互に移す。




 その足の下で、

 <重力ストーン>は

 ずっと自転を続けていた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 先程とは別の選手が

 ジャンプに失敗し、

 落ちて行くのが見えた。




 "マグロ" は避けた。




 ただ、誰も大騒ぎはしない。




 石も――




 遅れて――




 落ちて行った……。




 ―――――――――――――――――――――――――




 スペースリンクの中

 石に乗って宙に浮かんでいる "マグロ" の足元には、

 一本の直線が在る。




 スペースリンクの端から端までを走る


 ――青いレーザー光線。




 "マグロ" は

 石をコントロールして

 その光線の中

 嵌る様に置いていた。




 リンクの外から "マグロ" の姿を見ると、

 まるで

 光線を足で踏んでいる様に見える。




 サーカスの、綱渡りをしている様だ。




 "マグロ" は


 「じっ」と


 ――線の上

 立っている様に見えた。




 遠目では、同じ場所から動いていない様に見える。




 何十秒も同じポウスチャーを保ってから――




 片足を動かした。




 片足は動かさなかった。




 動かした方の足の下にある石が、

 レーザーの直線から外れ

 ――半円を描く様に

 動いた。




 軌跡は、現実に、描かれなかった。




 動く石と

 レーザーに包まれて動かない石

 その間は、

 等間隔であった。




 コンパスの要領だ。




 リンクの中で

 ――石を使って

 半円をひとつ描き終えると

 "マグロ" は

 ――今度は

 動かさなかった方の足を動かした。




 また石で、半円を描いた。




 そして "マグロ" は

 ――レーザーの直線の上

 ――足を交互に動かして

 半円を描き続けた。




 それは、”重力スケート”の競技<キテイ>の練習であった。



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