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新クラス

古瀬瑠璃と別れた春兎は、新しいクラスである1-2の前に立ち、自分の席の場所を確認していた。席は五十音順で並んでいて、36人の内「み」の春兎は出席番号29。一列六人だから、五列目の後ろから二番目だ。

「教師の目は届きにくいだろうけど、問題は周りの連中か…どんなやつらなんだろうか」

親戚の話では大都市の名門私立や進学塾はとても熱心な生徒が集まるそうで、私語やノートを写させてあげたりといったことはなく、ひたすら受験戦争を生き延びようとする個人(孤人?)の空間なのだとか。ここも地方とはいえ進学校。しのぎを削り合うことになるのはおそらく避けられないだろう。

「いつまで眺めてるの?」

不意に声をかけられ、思考を中断し振り返ると、そこには見覚えのない女子生徒が立っていた。

「そろそろいいでしょう?私もこの教室だから、確認させてくれるかしら」

「あ、悪いね」

つい余計なことを考えていて、邪魔になっていたようだ。

「私は35番か…君は何番?」

「僕は29番、深山春兎。よろしく」

せっかく向こうから話しかけてくれたので、とりあえず自己紹介をする。

「あら、先に自己紹介してくれるとは気が利いているのね。私は夜美桜(よみさくら)。こちらこそよろしくね、深山君。ていうか、私たち隣同士みたいよ」

なんという偶然か…いや、今から思えば偶然ではなかったのかもしれない…夜美は今まさに気にしていた『周りの連中』の一人だったのだ。

「早速近くの人とコミュニケーションが取れたのは幸いかな。知り合いがほとんどいないから、ちょっと不安だったけど…」

「あなたも?私もそこを気にしていたのよ。でもこの分なら、お互い出だしは順調ってことかしら」

教室に入りながら、二人は会話を続けた。どうやら、心配していたガリ勉タイプではなさそうだ。

「あなた今、失礼なこと考えなかった?」

なんとビックリ大正解だが、流石にうんとは言えない。

「いや、考えてないよ?ただ少しだけ安心したんだ」

「何に安心したのか、理由をもらっていいかしら?」

結構こだわり派らしい。

「なんというか…結構まともそうな人で」

「やっぱり失礼よね?」

「……ふふっ」

「…ははは…」

「あはははははははは!!」

何故だろう、初対面なのに、なんでもない話でこんなにも楽しくなれる。見れば夜美は笑いすぎたのか、ハンカチで目元を抑えている。その長い黒髪の隙間から覗く目は、長い睫毛に縁取られ慎ましくも華やかな印象を与える。整った顔立ちはどことなく品が有り、僅かに緩んだ口元に思わず視線が吸い寄せられて…

「はーい、皆自分の席について」

唐突に教師が入ってきたことで我にかえる。

今自分に起きたことを冷静になり切れない頭で懸命に整理しようとするが、教師の話を無視するわけにもいかず考えがまとまらない。

「今年一年、皆の担任になった倉橋だ。まだ経験は少ないが、国語なら俺に任せてくれて問題ない。他にも、クラスや友人関係、部活のことで困ったことがあれば、遠慮なく相談してくれ。力になる」

若さ溢れる自己紹介である。確か自転車誘導をしていた教師だったか…

「入学式までは時間があるから、皆一人ずつ、簡単でいいから自己紹介をしよう。受験は団体戦、いい雰囲気で過ごすことは大切だからな」

ということで、一番から自己紹介が始まった。しかし、同じ高校一年生なのに、他の男子にゴツいのが多いのはいったい…

「第四中出身、赤枝興毅です!目指すは甲子園、皆さん応援よろしくお願いします!」

「君は確か、もううちの野球部で練習してるよね?先生は将来有望な選手がやる気満々で嬉しいよ」

なるほど。もう高校レベルの運動部で練習しているからあれだけ体が出来ているのか。

そんなこんなで順番は回り、いよいよ春兎の番がきた。

「ええと、清水原(きよみはら)中学出身、深山春兎です。よろしくお願いします」

「おお!君は清水原の生徒だったのか!実はこの学校の生徒会長も清水原出身でね、毎年人数は少ないけど、優秀な人材が来てくれているんだそうだ。期待しているよ!」

この人は、なんというかひどい人だ。間違いない。

周りの視線がひしひしと伝わってくる。この居心地の悪さはいつまで続くのだろう…

そんなことを考えているうちに、夜美の番がきた。

信乃松(しのまつ)中学出身、夜美桜です。

まだ部活は決まってませんが、楽しいことは率先してやっていこうと思います!皆さん、よろしくお願いします!」

なんとも堂々としたものだ。委員長とか向いているのではないだろうか。

「君は学級委員とかやりそうだね。他にも文化祭やらスポーツ大会やら、イベントは盛りだくさんだから、興味があったら生徒会室に行ってみてくれ。」

そう言われた夜美の顔はまんざらでもなさそうだった。ということは、夜美も生徒会なのか…

そこまで考えたことは覚えている。だが、ここでしばらく春兎の記憶は途絶えることになる。周りで名前を呼ぶ声がする。先生、周りの連中、そして夜美…急速に闇に飲み込まれていく意識の中で、見開かれた夜美の漆黒の瞳だけが星のように輝いていた。

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