衝撃的な入学式
早速入学式をボイコットしてそのまま学校も辞める!
『無差別に襲われたいの? 隆たんアグレッシブー』
……何でナチュラルに脳内に話し掛けて来てんの? ねぇ?
と言うか、無差別に襲われたいとか、何するつもりだよ!
……ちょっ、反応なし? あ、テメー今全力で楽しんでるだろ!
はっ、待った! 立ち止まって心の中で文句言っている場合じゃぁない!
何で周りの生徒諸君が俺を包囲するように近づいてきているんだ?
全身に鳥肌が立ち、いろんな意味で貞操の危機を感じたので無理矢理生徒達を押しのけて入学式が行われる体育館へと向かう。
おいぃぃぃい! 今俺のケツ撫でた奴って誰だ!
押しのけている最中明らかにそれを感じて睨みつけようとして……ま、待て早まるな! 何で恍惚の表情を浮かべている奴ばっかり何だよ!
え? あれか? こいつら30人くらい居るんだけど、全員そっちの趣味か?
いやいやいやいや、か、勘弁してくれ!
お尻どころか全身を撫でくりわされ、最早個々に文句を言うよりも何よりも早く逃げ出すべきと判断する。
「うおぉぉ! 止めないとお前ら皆嫌いになるからな!」
が、半ば拘束するように腕を掴んできたり、流石に正面から抱きつこうとしてきた奴にはワンパンぶち込んでおいた。殴られた箇所を抑えて悶えていたけど……すまん、加減する余裕もないんだ。
が、ご褒美ありがとうございます! とかまた抱きつこうとしてきたので恐怖のあまりそう叫び声を上げる。
途中裏返ったりしたのだけど、嫌いになるとか以前に怖くて仕方ない。
と、さぁっと俺から離れてビクビクと顔色をうかがってくる男子生徒達。
……全員ムキムキのマッチョじゃねーか。なにこれ? 女神の趣味?
『私はそんな小さな範囲の趣味じゃぁ、はぁはぁ、涙目な隆たん萌えぇー』
ダメだコイツ、早く何とかしないと……。
ともかく、離れてくれたチャンスを活かなさい手はないので、そのまますぐに体育館に向かう。
多分きっと女神からの忠告なのだろう。
もしバックレようとしたら日常的にこんな状況になるって訳か……嫌すぎる。
心の底から入学式には出たくなかったのだけど、それ以上にさっきの仕打ちがトラウマで参加する事にしたのだった。とほほほほ。
体育館前にクラス分けが張り出されていて、それで確認してクラス別に決められた席ならばどこにでも座っていいらしい。
なので、両方を挟まれるなんて耐えられない俺は端っこの一番後ろの席に座る。
これならまだ逃げやすい。
周りを警戒しながら、式が始まるのを待つ。
最悪な事に何故か俺と目が合うと舌舐りをしたり、ウィンクしてきたりと、そんな奴しかいない。
無反応な奴が数人いたのだけど、それに感動してしまうくらいだ。
隣に座ってきた奴は……何でか完全に女だろ? ってくらい可愛い顔をしていて思わずドキッと……違う! 俺にそんな趣味はない!
くそぉ、あの手この手すぎるだろうがよぉ!
必死に隣からも意識を逸らしていると、式がようやく始まりを迎える。
ああ、入学式なんて退屈なものだろうけど、なんか感慨深い。
なんて思うわけないだろ! 式中でも襲われないか常にビクビクして式どころじゃぁない。
心配そうに大丈夫? なんて言ってくれた隣の奴にまたキュンってしてしまって……コイツ本当に男か? 男物の制服を来た女とかじゃないの?
いや、信用するな、何も信用してはダメだ。
自分を戒める中、校長の言葉が始まる。
「新入生諸君、我々は君達を盛大に歓迎する。
是非この学び舎で勉学に恋愛に励みなさい!」
おいこら! 今おかしい事言わなかったか?
とんでもないセリフに呆然と壇上を見上げてしまう。
「何よりも恋愛は素晴らしい。
私達の教育方針として、愛の力を勉強に還元できれば、必ずや掴み取りたち未来と勝ち取れると信じている。
なので、君たちは自由に恋愛をしなさい。
勿論教師とでも一切問題ない。君達はその自由にその相手を選びなさい」
おいおいおいおい、お願いだから退屈な普通の校長の言葉になってくれよぉ。
内心で必死に懇願するのに、なおも校長の言葉は止まらない。
「厚い胸板に抱きついてもいい。女どもと違う気遣いに心癒されてもいい。ここでは君達の想いを否定なんか一切しない。
無論、女に恋愛感情を抱いてしまう生徒には優しく指導するから、その点の心配もいらない。
大丈夫、我々は君達の味方だ。
さぁ、素晴らしい学園生活を送ろう!」
締めの言葉なのか、一歩下がって一礼する校長に盛大な拍手が巻き起こる。
どうしよう、頭が痛いとか言うレベルじゃぁない。
味方どころか、俺には全員もれなく敵じゃねーか。
と言うか、どんなゲームだよこれ?
『ビバ! 鳳凰男子高等学校恋愛事情! ってゲームよ。これ凄いのよ。ねぇねぇ、何と学園に出てくる全てのNPCと恋愛出来ちゃうのよ!
しかもネコもタチも色んなルートあるんだから!
ああん、戸惑う隆たん萌えー。早く襲われてね!』
おい待て! 変なところでばかりで話し掛けんな!
しかもネコとかタチとか、前世の記憶があるから分かる分……え? もしかしてそこまであんのそのゲーム?
もしかしなくても、そこまで適用されているとか?
うおぉぉぉぉ、なら尚更早く襲われてねとか止めてくれ! ――止めて下さい!
反応なしかよ!
熱気に包まれる体育館。
俺は1人絶望に包まれるのだった。
本当に、私はどこに向かっているのでしょう?