事の発端
熱いよ、熱いよ、熱いよ、母さん。
怖いよ、怖いよ、怖いよ、父さん。
逃げて、逃げて、逃げて、みんな。
さいごに、みんなに、あいたいな。
【叶えてやろう】
神、さま―――?
寝心地悪い。硬い、硬いよ母さん…。あれ?私、あれ?ココどこ?なんか、燃えてて、右目が、痛くて、ああ、眠い。眠い。眠いよ…。起こさないで。後、5分。ねぇ、母さん。あれ、そういえば母さん燃えて私燃えてお父さん燃えてみんな燃えた私何で死ななかったの分かんないよ母さん母さん母さん母さん。
眠い。ああ、そうか。夢だったんだ。だって、眠い。眠い。眠い。
「そろそろ起きるかえ?」
誰?誰?私、まだ寝るよ。眠いもの。眠いよ。だって、夢が見えるもの。眠い。赤い。赤い。炎。眠い。火。火、眠い、火、火、眠い、火ってなん、眠い。だっけ?
「ふむ。記憶が混濁しとる故・・・めんどいのォ。」
混濁?眠い。それよ、眠い。り、火火、火、眠い。火、ひひ、ヒ。怖い。眠い。怖いって、眠い。何?
「「「「お主は【火】じゃ。昔の名を忘れ、『神』として生きよ。さぁ、生きよ。【火】!」」」」
その声は男の人の声にも、女の人の声にも、まだ年端もいかない子供の声にも、老人のしゃがれた声にも、天の声にも聞こえた。否。それは、神の声だったのだ。
「神、サマ・・・。」
「ご名答!妾は神にして、お主の師匠であり、母じゃ!そして何よりこの世界のトップ2である【S】じゃ!気軽に【S】様と呼ぶがよい!さあ、敬い称えよ!」
頭が冴えてきた。もう、眠くない。ゆっくりと体を起こすと、ひんやりとした感覚が手元から伝わってくる。これでは寝心地悪かったはずだ。カプセルのようなもので寝てたのかな?でも、ここ、どこ?病院じゃ、無い?・・・病院に神様はいないか。
「大丈夫かえ?【火】。」
【S】と名乗った女の人(?)は凄く美しく、奇妙だった。眼の位置に包帯をぐるぐる巻きにしているし、自分の身長よりもはるかに長く、少ない、美しい黒髪をツインテールにしている。着ている物も珍妙だ。まるで着物のように前合わせになっていて、しかし帯の下はまるでドレスのようにふんわりとボリュームたっぷりに足元をすっぽりと覆い隠している。
口元には美しく妖艶な笑みが浮かんでいるが、包帯の奥の目は笑っていないのではなかろうか、と想像させる様な顔だ。
「怖がるなかれ!【火】よ!妾はお主の敵ではないぞえ。」
【S】様の動きに合わせて、なぜか細いツインテールもまるで生きているように動く。不気味だ。だいたい、誰?この人は誰なのだ。【S】?それは名前?私の名前は【火】じゃない。
・・・私の名前、何?
「どう見ても怯えてますよ。【S】様。ほかの3人も怯えてましたし。ほかの3人のように、寝かせてあげたらどうですか?」
「五月蠅いのぅ、【仁義】。それぐらい妾だって思ってたぞえ。【火】よ。まぁ、眠るがよい。して、明日に備えよ。」
嗚呼、眠い。眠い、ねむ・・・。
【火】は、優しい女の子だったのです。