出会い
同時刻、アンダーランドでは、一人の少女が執務に追われていた。眉の上に綺麗に整えられた前髪を弄りながら、深く溜め息をつく。蜂蜜色の長い髪が、どこから吹いたのかわからない風に靡かれた。ふと視線を書類から外し、彼女は大きな瞳を更に大きく見開いた。
「え、誰…?」
彼女の視線の先には見知らぬ少年がいた。この部屋のセキュリティは万全であり、彼女の許可なく立ちいることは許されない。それなのに、この少年は一体どこから入ってきたというのだろうか。ペンを置き、恐る恐る少年に近寄る。彼は規則正しい呼吸を繰り返し、気持ち良さそうに眠っている。伏せられた睫毛は長く、思わず息を呑んだ。
「綺麗な顔…。一体誰なのかしら」
とりあえず、起きてもらわないことには話が進まない。パチンと指を鳴らすと、硬く閉じられていた瞳がタイミングよく開いた。少年は呆然と彼女を見つめる。そんな彼に向かって、少女はにこりと愛らしい笑みを浮かべた。
「はじめまして、私はナナ。あなたのお名前は?」
「檜山、薫」
「ヒヤマ?不思議な名前ね」
ナナと名乗った少女は、不思議そうに首を傾げる。薫は違う、薫が名前だ、と訂正した。
「カオルね。ねえ、カオル?」
にこりと微笑む少女の瞳は、笑っていなかった。
「あなたは何者なの?」