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再チャレンジ

美樹ちゃん達と一緒にいるようになって数週間が経った頃、朝学校に着くと珍しくもう須賀くんが来ていた。


普段ならまだ来てない時間に来ていて、しかも私の席まで来る顔つきがなんか・・・怖い。


「園田、おはよう。ちょっと頼みが」


「うん、あるみたいだね。須賀くん、顔、怖いから」


「あ?あはは、そうか?ごめん。ちょっと、いい?」


明らかに緊張の色が隠せない表情を照れ笑いに見せかけた変な笑い顔に、私の方が顔をひきつらせてしまった。


・・・こんな風に話せたり頼まれ事されるなんて、喜ばしいやら、内容が分かっちゃうからなんとも言えない。


下駄箱側とは反対の階段の踊場まで行って須賀くんはこっちを振り向いた。


「あのさ、今度、そっち4人と男4人で出かけないか?」


「・・・」


「いや、急にごめんな。でもずっと考えてて、ほら、俺前に前川さんに振られたじゃん?でもまだ諦めきれなくて、そしたら最近園田とかと前川さんよく一緒にいるし、みんなと一緒なら遊びに行けるかな~とか思ったり、いろいろ考えたんだけど、水族館とかベタだけどいいかな~とか・・・」


ここまで一気に喋って、いきなりガクッと肩を落とした。


いつもと違う、余裕がない須賀くんがなんだか可愛く思えた。


そんなに好きなんだね、美樹ちゃんのこと。


胸の奥は痛むけど、応援団ですから、私。頑張りますよ~。


「分かったから。4:4で水族館に行きたいんでしょ?みんなの予定聞いてみてまた教えるね。そっちは?誰が来るの?」


パッとこっちを見た目がキラキラ光る子犬のようですごく可愛いと思ったのは心の中に留めとこう。

また恋しくてキュンとなったことも。


「俺と、林とあとは2組の山本と野中。園田、恩にきる!」


拝まれちゃった、私。




***




あの日の次の週の日曜日、女子は私と珠美と美樹ちゃんと花ちゃん、男子は須賀くんと同じクラスでサッカー部の林遼平、2組の山本くんと去年一緒のクラスだった野中くん、8人で水族館に行くことになり、今電車で向かっている。


私たちはいつもと同じ感じで昨日見たテレビの話や雑貨屋さんの話、ファッションやメイクや話題があっちこっちに飛びながらも楽しく喋っていた。


反対側のドアに野郎共4人が思い詰めた顔してるもの、しかめっ面の者、我関せずで外ばっか見てる者、こっちが見たくて見れなくて挙動不審になってる者・・・


暗い。怖い。・・・何なの、あれは。


「ちょっと、須賀くん」


車内だから声を潜めて須賀くんに話しかけた。


「みんな何なの?全然楽しそうにしてないじゃない。せっかく一緒に行ってるんだから、もう少しましな顔してよ。そんなならうちらだけで行くから、電車降りたら別行動にしよ」


「ちょ、ちょっと待った。いや、俺達、これでも女子と出かけるのみんな初めてで緊張してんだって。頼む!園田、助けてくれって!」


ふと他の3人を見たら、目で「お願いします」と言っていた。

・・・しょうがない。

一肌でも二肌でも脱いでさしあげようじゃないか!


「分かった。とりあえず、車内で怖い顔するのはやめて。向こうに着いたら誰かとペアになる?それか2:2になって回る?それを考えよう。」


そう言うと男子はみんなほっと一息付いていた。

こんなんだったら最初から誘わなきゃいいのに。

でも、学校外で会いたかったんだね~。

・・・ん?みんな同じ反応って事は何?珠美や花ちゃんを好きな子がこの中にいるって事?

よし!私、頑張らされていただきます!



さて。

結局、見て回るのはみんなで行くと多いからとか何とか言って、4人一組で回ることにした。


私は珠美と・・・と思ったら、須賀くんにグイッと襟元を後ろから引かれた。く・・苦しい!


「俺と林と園田と前川さんであっちから行くから」


「おう。じゃあ俺は山本と緒方と水波さんとで行くわ」


ふーん・・・

野中くんは珠美か花ちゃん狙いなのね。

そして私は須賀くんと美樹ちゃんの仲を近づかせる、と。了解。


「林くん、見て~、あれ、ニモじゃない?」


「あ?ニモって何だよ」


「え?ニモ知らないの!?」


「麻夕ちゃん待って~」


こらこら、美樹ちゃんはついてきちゃダメじゃん。


「前川さん、カクレクマノミ、見に行こうか」


「あ・・・うん」


よしよし、出だし順調かな。



私と林くんがあーだこーだ話しながら先に行き、後から須賀くんと美樹ちゃんが和やかな雰囲気で付いて来るという感じで全部見て回り、お土産のところで別の4人と合流した。


林くんとはあんまり話した事なかったけど、会話のペースがちょうど良かった。

魚の知識もあって、いろいろ説明してくれて。

それなりに楽しかったんだけど、後ろの2人が気になって・・・


そしたら、お土産売り場までもう少しのところでぼそっと言われた。


「園田、辛くねぇの?」


「え?」


「須賀の事。見てれば分かるよ」


「あ、えーっと。私、須賀くんとは友達だから。だから、友達の恋の応援してるの。うまくいったら、友達が嬉しそうにしてたら私も嬉しいから」


「本当に?」


「・・・うん。全然辛くないって言ったらそうじゃないかもしれないけど、友達が困る姿見るより、楽しそうな顔みる方がよっぽどいい。ほら」


後ろを見ると、幸せそうに笑いながら美樹ちゃんを見る須賀くんと、同じく楽しそうに須賀くんを見る美樹ちゃんの姿が。


小さくツキンとなる胸をぎゅっと押さえて、林くんを促した。


「ほら!野中くん達、もう来てるよ」




帰りの電車は行きと違って、みんなで和気あいあいとした雰囲気だった。


美樹ちゃんが私のそばにこそっと寄ってきて、小声で言ってきた。


「須賀くん、前となんか違うよね。優しいし、男らしくリードしてもらっちゃった」


可愛く、ふふっと笑う美樹ちゃんに、私はちゃんと笑顔で返せたかな。


「・・・よかったね」


そう言うのが精一杯だった。



次の日の月曜日から、周りの様子が変わった。


「麻夕ちゃん、おはよう」


「園田、はよ」


「おはよう」


下駄箱で会ったらしい2人は一緒に教室に入って来た。


そしてそれは次の日もその次の日も続き、2人が付き合ってるという噂まで流れ始めた。


もちろん、まんざらでもない2人。


そして木曜日の放課後、私は須賀くんとまたあの階段の踊場にいる。


「俺、明日前川さんにもう一度自分の気持ちを言おうと思う」


その目は自信に満ち溢れ、すごく格好良かった。

この顔を向けられる美樹ちゃんが羨ましいとやっぱり思う。


でも私は、にっこり笑って、背中を押してあげるんだ。


その位置を選んだんだから。


「今度は大丈夫だよ。頑張って!」


「おう。いろいろありがとな」


そう言って、それじゃあと先に帰っていった。


その背中を眺めながら、ああ、明日は二度目の失恋だなって、確信した。







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