告白
彼女達がいなくなって、彼と2人になっても立ち止まったまま足は動かず。
2人の距離は5mほど。
だって、まだ心の整理がついてないから何を話していいか分からなくて。
こんにちは?───違う。
夏休みどう過ごす?───唐突すぎ。
・・好きです?───まだそんな段階じゃない。
頭が真っ白になって、通知表と筆記用具だけしか入ってないカバンをぎゅっと握りしめた。
「腹、減らない?」
須賀くんは、ちょっと困ったような、でも私が好きなふんわりとした笑顔でそう言った。
この状況でお腹なんて空いてなかったけど、このままこんな所で立っている訳にはいかなかったから、とりあえず頷いた。
店に入らず、テイクアウトのお弁当屋さんに行き、私は食欲ないからサンドイッチ、須賀くんは唐揚げ弁当を買って近くの公園に行った。
日陰のベンチに座って、荷物を2人の間に置く。
目の前の遊具では日差しが強い時間にもかかわらず小さい子達が遊んでいた。
ペットボトルの紅茶を飲んで落ち着こうと思うけど、さっきから緊張でドキドキしっぱなしの心臓はおさまってくれずに。
隣の彼はお弁当を膝に置き、同じく前で遊ぶ子供達を見ていた。
「とりあえず、食べようか」
「うん・・・」
この前まで普通に話せていたのに。
でも、もう自分の気持ちを我慢できないって思っちゃってからはダメだ。意識しちゃって、まともに顔を見ることもできないよ。
でも、須賀くんもこの前とかなんだか雰囲気が違う。
2人の間には微妙な空気が流れていた。
私は袋からサンドイッチを出して一口食べたけど、やっぱり入らなくて。
また直して、紅茶を口にした。
「腹、減ってなかった?」
須賀くんはこっちを向いて、自分もお弁当の蓋を閉じた。
「・・・なんて言っても、俺も実は入らないんだ。腹減ってない訳じゃないんだけど、なんか・・緊張して」
「緊張?」
「ん。まぁ、ね」
また沈黙が流れ、2人の視線は遊具で遊ぶ子供達に向けられた。
さっきまで母親と遊んでいた子が、砂場で夢中になっている間に一人になってしまって。
私は慌ててその子の母親を探すと、下の子の世話を少し離れた木陰のベビーカーでしているのを見つけた。
また子供の方に視線を戻すと、母親がいなくなったのに気づいてきょろきょろしたり、砂場付近と隣の遊具付近を探してるけど遠くにいることは分からないみたいで。
みるみる泣き顔に変わりだし、とうとう大声で泣き出した。
咄嗟に駆けだして、その子のそばに行ってあげて、母親がいる方を指差してあげる。
すると子供は泣きながら駈けていき、母親に抱きついていた。
子供に気づいた母親が頭を撫でてぎゅっと抱きしめてあげている。
こちらを指差す子供につられて目が合った母親は、ぺこりとお辞儀したから、私も返した。
ベンチに戻ると、さっきまでのピリピリとした空気は和んでいた。
「よかった、あの子。迷子にならなくて」
「園田が見てくれてたら絶対ならないよ」
「そんな事ないよ」
「いや。園田は優しいから」
やっと普通の会話が出来たと思ったら。
須賀くんの声色が変わった。
「あの時。・・・最初に前川さんに振られた時、園田に見られてよかった」
「え?」
「二度目も。前川さんと別れた時も、園田はそばにいた」
「・・・」
「園田がいたから、元気になれたし、勇気も出た。それに、最終的に振られた時もそれほど落ち込まなかったのは園田がいてくれたからだよ」
須賀くんは体ごとこっちを見ていた。
「あの子も園田の優しさに助けられた。俺も、助けられた」
その目は真剣で。
言われてる事は私を良くいい過ぎてる。私、そんないい人じゃない。
優しく出来たのは須賀くんと一緒にいるためにしたことなのに。
「私そんな優しくないよ・・・」
「優しいよ。俺はそう思う。小さい子とかならいいと思うけど、これからは俺だけに・・」
「え?」
「あー、うん。えっと、上手く言えねぇ・・」
はぁと肩を落としてしまった須賀くんの顔が赤く見えるのは気のせい?
「園田」
こちらを見て、やっぱり少し赤い顔のまま、また真剣な目をした。
「俺・・・、園田が好きだ」
え・・・・・・?
「いつもそばにいてくれて、助けてくれて、優しい園田がいつの間にか好きになってた。だから・・・、俺と付き合って?」