みんなに支えられて
久しぶりに泣いて寝たら、朝起きたら顔が大変な事になってた。
顔洗って目元に冷たいタオルを置いたまま、ダイニングの椅子に座った。
「麻夕、早く食べちゃわないと電車乗り遅れるわよ」
「んー」
用意された朝ご飯を見ると、ほかほかのご飯と豆腐となめこのお味噌汁に身の厚い焼き鮭。
私の大好きなものばかり。
キッチンにいる母親は、普段から何も言ってこないけど、元気がないときとかはこうして私の好きなものを用意してくれる。
昨日から緩んだ涙腺からまた涙が出そうになったけど、タオルを目にぎゅっと押し当てて止めた。
「いただきます!」
食べ始めると、キッチンの方から声がした。
「女の子の原動力はいい恋をすることよ~。頑張んなさいね」
声がした方を見ると、私と似た奥二重の目がこっちを見ていて、ウインクしてきた。
母親のあったかい朝ご飯のおかげで、心の元気までもらって、いつも通りに学校に行く事が出来た。
下駄箱で靴を履き替えていると、珍しい人がすでに登校していた。
「おはよー、麻夕」
「おはよー。今日は早いんだね、珠美」
「うん、ちょっと用事があって」
「そうなんだ」
2人で教室に行く間、もうすぐ始まる長期休みの計画を立て始める。
前に行った水族館の近くのプールに行こうとか、ちょっと遠出して海まで行く?とか、大きな川沿いである花火大会の浴衣は新調するのか、とか・・・。
気を使ってくれてるのか、昨日の話はしていない。
今の私にはとても嬉しい。
気持ちの整理がついたといっても、まだ、楽しい事を考えて気を紛らわせていたかった。
見たくはなかったけど、目の端に入ってくる須賀くんの席にはまだその姿はない。
ほっとするような、寂しいような。
「麻夕ちゃん、おはよう」
目の前に、久しぶりに美樹ちゃんと・・・林くんがいた。
この2人は正式に付き合いだしてから、最初は須賀くんからすぐ林くんに乗り換えたと悪く言われていた事もあった美樹ちゃんだけど、林くんのフォローもあって今では仲良しカップルって言われてる。
「おはよー、美樹ちゃんと林くん」
「あのね、麻夕ちゃん。もうすぐ終業式じゃない?その日って何か用事ある?」
「ん?特にはないよ。なんで?」
「久しぶりにどこか行かない?」
「うん!いいよ。何か久しぶりだね~。最近は林くんに美樹ちゃん取られてたからね」
「俺?」
「あんたのせいで美樹ちゃんの付き合いが悪くなったのよ。今度は私達と出かけるからね」
「そういうことで、遼平くん、終業式は女の子だけで、だからね。邪魔しないでね」
そうにっこり笑う美樹ちゃんに、林くんは何も言えなかった。
終業式は久しぶりに3人でお出かけか。
どこ行こう。何しよう。
今は楽しい事を考える事に集中しよう。それからまた元気になって、須賀くんと向き合おう。
迎えた終業式。
この日まで須賀くんとは挨拶程度の会話だった。そしてもう帰る時間になったのに、今日はタイミング悪く一言も喋れてない。
元から私達はそうだったのだから、気にしない。
試験前後がちょっと親密になりすぎてただけで。
だから、落ち込むことなんて、ない・・・。
「麻夕・・・。何?そのグレーのオーラは。そんなに気になるんだったら話し掛けるくらいしたらいいじゃないの」
「いや、いいの。これが私達の距離なんだから」
「それにしてもこのオーラはうっとうしいわ。これから楽しい休みに入るっていうのに」
「麻夕ちゃん、珠美ちゃん、用意出来た?」
「美樹ちゃん、出来てるよ~。麻夕がこんなんだけどね」
「どうしたの?成績悪かった?」
「き、気にしないで、美樹ちゃん!さ、行こうか!」
珠美と美樹ちゃんより前を歩き、半ば走るように下駄箱に向かった。
3人で並んで駅まで行く。
これからの予定は特には決めてなかったけど、軽くお昼ご飯でも食べてぶらっと駅ビルを見て回るか、カラオケか。
いつもの感じではそんなとこだろう。
「ねぇ、最初どこ行く?腹ごしらえにいつものマ○ク行く?」
「う~ん・・・」
2人共歯切れが悪い。
もうマ○クは行き飽きたのかな。
カフェとかの方がいいのかな?
「じゃあどこ行こ・・・」
駅についたとこに立っている人を見つけて足が止まった。
その人がまっすぐこっちを見ていたから。
さっきまで同じとこにいて、だけど話せなくて。
今日は目も合わなかったんだと、今気づいた。
「ごめん、麻夕。私達用事が出来ちゃったから、私達の代わりにこいつとお昼一緒に食べて?」
「ごめんね、麻夕ちゃん。急だったから言い出せなくて」
2人共、分かりやすく棒読みの台詞を言って、でも顔は真剣だった。
どちらかがこの場を作ってくれたんだって、すぐに分かった。
珠美は私の耳元で、頑張れ、って言って、美樹ちゃんと駅ビルの中に入っていった。