放課後の夕焼け
あの夢のような日から数日後、休み明けの教室はこれから来る長期休みに向けてふわふわした雰囲気になっていた。
でもその前に、試験の答案が返ってきて、その結果次第で夏休みの補習授業を受けなきゃいけない人の発表がある。
で、その後に通知表も返ってくる。
ああ、まだ気は抜けなかったわ・・・。
せっかく夢の続きのような頭の中でちょうちょが飛んでたとこに、急に雨が降ってきたように気分の落ち込んできて、机に突っ伏した。
「園田、はよ。どした?」
登校して来た須賀くんが、私の頭をポンポンと叩いた。
「ひぇっ!」
「そんなに驚かなくても。どうせ園田の事だから試験結果とか通知表の心配してんだろ?」
「う・・うん」
「大丈夫だって。今回は俺も一緒に勉強してたんだし。なるようになるさ!」
「そ・・そかな。そうだね、気にしない急にしない!あ、おはようです。ははは」
触れられた場所を頭をかくふりをして自分で撫でた。
席に戻っていく須賀くんを見ながら、痛いくらいにドキドキする心臓が苦しい。
ほぅとため息をつくと、また机に視線を戻した。
こんな思いをいつまで続ければいいんだろう・・・。
一緒にいられるのはやっぱり友達としてだから。
私の思いを伝えたら、今の関係は崩れちゃうかなぁ。
意気地なしの私にとっては今のままが一番いい気がする。
私の思いには蓋をしたままで。
「麻~夕さん」
肩をポンと叩いてきた珠美はちょっと困ったような顔をして私を見ていた。
「あ、珠美、おはよー・・・」
「麻夕、どうしたの?そんな顔してたらバレちゃうんじゃないってくらい恋する乙女なんだけど」
「んー?分かってるんだけど・・・」
私は試験休みの時の話を珠美にしてなかったと思って、話した。
「うっそ!そんな事があったの!?なんで教えてくれなかったの!」
「珠美!声大きい!」
周りを見たら須賀くんはいなくてホッとした。
「ごめん。でもさ、ただの友達と2人でそんな風に出かけられる奴だったっけ?」
「あれじゃない?失恋同盟とかのおかげとか。一緒にいる時間が増えたのは嬉しいんだけどさ、なんか完全に友情の方が勝ってるよね・・・」
「ああ、そうかもね」
「それはそれで辛いよな~」
うにゃ~と呟きながらまた机に突っ伏した。
この日、私は古文の先生から頼まれていた資料綴じを職員室でしていて、終わったのはかなり遅くなってからだった。
いくら日が長くなったとはいえ、夕方遅い時間に1人で帰るのは心細い。
珠美はバイトでHRが終わるとすぐに帰っていた。
急いでカバンを取りに教室に戻ると、ドアを開けたとこで立ち止まった。
「うわ・・・・・」
教室全体がオレンジ色に染まるくらいの夕焼け空が窓の外に広がっていた。
「きれい・・・」
赤に近い濃いオレンジ色の太陽が沈んでいく。
この時期にこんな夕焼けなんて珍しいかもしれない。
その夕日を見ながら、なんだか知らないけど泣けてきた。
自分の気持ちも夕日と共に沈んで隠れてしまえばいいのに。
そしたら、友達として楽しく過ごせるのに。
好き、なんて思うから辛いんだよ・・・。
分かってる。頭ではちゃんと分かってるのに・・・。
「・・・園田?」
急に聞こえてきた声にびくっと肩が震えた。
こぼれていた涙を急いで拭って、振り向いた。
「どうしたの?須賀くん、こんな時間まで残ってて」
「いや、図書委員の井上が用事があるって言うから代わりに仕事してた。園田は終わった?古文の松尾に仕事押しつけられてたろ?」
「よく知ってるね。そう、今終わったとこ」
須賀くんからは私が逆光になって良かった。
今はどんな顔してるか分からない。
会話が止まると、視線はまた夕日に戻った。
さっきよりもだいぶ沈んできた。
「きれいだな」
「うん・・・」
神様、あなたは私にどうしろって思ってるんですか?
こうして2人になることが多すぎます。
これはご褒美なんですか?それとも試練ですか?
私は・・・どうすればいいですか?
「そろそろ帰らないと暗くなるぞ」
「そうだね、帰ろうか」
夕日が全部沈んでしまうまで2人で空を眺めていた。
その間、会話はなかったけど、とても居心地よかった。
下駄箱で靴を履き替えて、須賀くんが先に出て後から追いかける。
あの時もそうだけど、2人で歩く時、私は恥ずかしくて半歩後ろを行くようにしてるんだけど、須賀くんはそんな私に気づくと必ず隣に並んでくる。
今日もやっぱり隣にきた。
須賀くんがいる右側があったかい。
その距離は学校指定カバンと重ねて持ってるサブバッグ分。
私と須賀くんの気持ちの距離もこれくらいだったらいいのに。
校門近くの自転車置き場が試験が終わって工事が始まっていた。壊れていた屋根の修復工事だそうで。
いろんなものが雑多に置いてあるから気をつけて歩く。アスファルトと砂利が混ざっていて足が取られる。
「園田、気をつけてな。どんくさそうだし」
「失礼な!ここは気をつけてるから大丈夫・・って、わっ!」
「っと・・・。ほら、危ないだろ?」
鉄パイプが並べてあった中で一本だけ出たのに躓いて転けそうになったところを須賀くんが手を引っ張ってくれた。
「あ、りがとう」
須賀くんは左側に回ってきて、おもむろに手を掴んできた。・・・というより、手を繋いできた。
「須賀くん・・・?」
「危なっかしいからな。転ばぬ先の杖ならぬ、手?」
「あの、もう、大丈夫だし」
「いーや。さっきも大丈夫って言いながら転けそうになったじゃん。大人しくついてきてくださいな」
「・・・・はい」
そのまま私は真っ赤に染まった顔を俯き気味にして隠しながら、駅までの道のりを歩いた。
やっぱり神様は意地悪ですね。