愛の囁きは耳元で。
鉄格子越しに見える窓の外は、月と星が煌き雲一つ無かった。繊細なアートの様な鉄格子も手伝ってまるで絵画のような世界。
力が抜け愕然とユーナは、その窓辺へと腰をかける。考えの一つ二つ先で手を打たれている。 俯く彼女に……
「そう……落ち込まないで欲しいな」
先ほどまでの熱心な口調とは変わり落ち着いた声色、迷子の子供をあやす様な
優しく耳元へと囁く声……
「囁く声が耳元で聞こえる!? 」
顔を上げれば、息もかかるような場所にレイヴァンは近づいていた。 間近で見ても隙の無い綺麗な肌理細やかな肌、こんな事態じゃなければ、すべすべ触ってみたい、そう思う程。
髪もサラリとしていて、シャンプーのCMに出れそうなくらい。
「ち……近くありません?」
上擦る声は、思わず敬語になる。
「恋人同士、これ位当たり前でしょ」
近すぎて表情は分からない。
「返事断ったはずなんですけど……」
「今はその気が無くても、必ず、すぐ好きにさせてみせるよ。」
囁く声がくすぐったい。 驚きと恥ずかしさ。 目が回り、何が何やら考えがまとまらない。
私の髪にレイヴァンの指が触れ――――「柔らいね」と。
肩に触れ――――「華奢で可愛い」と。
唇に触れ――――「愛らしい吸い付きたいよ」と。
一つひとつ丁寧に触れてきた。全ての動作に何も返せない。
しだいに、グルグルグルグル……目が回ってきた。
『グゥー』
3日何も食べてないお腹がレイヴァンの愛の囁きに返事をした。
クスッ・・・
レイヴァンは、爽やか笑顔に戻すと、優雅にユーナの手を取りテーブルにエスコートする。
「とりあえず、ご飯を食べよう。」
取り合えず、食べる。此方の世界で食べた料理で一番豪華だったけど、味がしない。でも、ひたすら食べてやる。
時折、ちらりと見た相手は合いも変わらず熱い視線を送っているけど、気づかないふりをして食べまくる。
テーブル上にあった料理が無くなった頃、見計らったかのようにホテルスタッフが片付けに入ってきた。
そして、「今日は疲れているだろう」と、レイヴァンは微笑み意外にも隣の部屋へと歩き出す。
あれだけ妙なアプローチをイキナリするのだから、手篭めにでもされるかと警戒していただけにユーナは拍子抜けした。意外に紳士で良い人なのかもしれないと、彼を米粒一つ位見直した。
「隣の部屋に居るから その気になったらいつでもおいで。」
と、付け加えながら隣の部屋へと去っていった。
無言で手元にあったクッションを彼の去ったドアへと力の限り投げつけ、それで返事とした。




