お手紙からはじめましょう。
「……はぁ?」
おそらく今の私の顔は、 かなり間が抜けて恥ずかしい状態だろうけど 直す気も起らないくらい、驚いてしまった。
――何故そうなる?
踵落としで頭の打ち所が悪く、 おかしくなってしまったのだろうか。 それとも新手の何かの嫌がらせだろうか? 如何にもお金持ちで美系で女には困っていない男が わざわざキメラの私を選ぶはずがない。 上手い具合に騙して連れて帰って 実験のモルモットとかにする気のはずだ。
お腹は減ってるし、変なトラブルばかりに合うし、 あげくに騙そうとしてるっぽいし、色々と考えているうちにふつふつと怒りが全身をたぎらせる。
もし、目の前の机の上にご馳走が並んでいなかったら昭和のお父さんみたいにちゃぶ台返ししちゃってたと思う。
残った理性で食べ物を大切にという事でちゃぶ台返しではなく、
――ダンッ
思いっきり机を両手で叩いてやった。
「お断りします!!」
鼻息も荒く立ち上がりながら拒否。
「冗談はよして……村に帰して」
威勢良く続けた。 私の勢いに相手、レイヴァンは、驚く……いや、全くそんな風な様子はなくニコニコしながら「却下☆」と、爽やかに答えた。
「そもそもユーナ、君は何故、獣人に攫われていたか分かるのかい? 何もわからない状況で村に戻ったって、また、攫われる……。いや、もしかしたら周りの人間を巻き込んでしまうかもしれないよ」
子供を諭すように彼は続けた……
「その点、俺について来れば、相手も分から無いだろうし、たとえ分かっても、迂闊に手を出せない」
悪い話じゃないっと、 付け加えた。確かに何故誘拐されそうになったか分からないし、村の友人達を巻き込みたくない……。ほとぼり冷めるまで悪い話じゃない……そう、思うけど……。
「ちょ、でも、何でそれで求婚する必要があるわけ?」
か弱い(踵落としは決めちゃったけど)女性を匿ってくれるのは、嬉しいし、優しい騎士様のご厚意、甘えちゃってもいいかと思ったけど、それと妻になるのとは話が違う。
「一目惚れしたからだよ」
無駄にキラキラオーラを出しながらレイヴァンは答えた。
「もちろん、本妻に。 まだ、誰も娶っていないし、愛人も居ない。 安心してくれ」
爽やかなマイナスイオンオーラを醸し出しながら身が綺麗な事を強調した。
「16歳なら立派な成人、誰に咎められよう。」
この国の法律上何も問題はないっと、締めくくった。
「そう、何も問題わよ……いや、大問題。私の気持ちはどうなるのよ!!」
思わず乗り突っ込みしちゃうくらい興奮してしまう。
平平凡凡、のんびり穏やかな生活をしたいだけなのに!! こんなキラキラ生物と一緒に暮らしてたら、絶対陰謀とかに巻き込まれる!!
「そもそも!!物事には順序があるでしょ!! ほら、平安時代なんて短歌を贈る所からはじめてたらしいよ。プロポーズの前に。まず、手紙からとか……ね!!」
焦り思わず、昔のチキュウの記憶の単語が出てしまう。 しかし、レイヴァンが「ヘイアン?タンカ??」と、
聞き慣れない単語に気を取られる。
――あら?これはチャンスかも?
ユーナは、颯爽と部屋の端に向かって走り出す。そこにあるのは、窓。上品な緑のカーテンがしっかりとかけられた。
勢い良くそれを引き、窓を開き、窓辺に手をつけ翼を広げ、夜空に飛び立つ!!
(……飛び立てない!?)
繊細なアーチを描く鉄の装飾品、芸術性を感じる素敵な鉄格子がきっちりとはめ込まれていた。
「翼人って空飛べるから、もしかしてユーナも飛べるかな?と、思ってそれ付けてみたよ。綺麗でしょ?」
クスッと、笑いながらレイヴァンは説明した。