あらゆる手段で八方塞がりな求婚。
「よくよく思い出せば、あの村で会っていたよね。
さて、名前は?」
痴漢男は、立派な宿屋の一室(無駄にスペースがあり私の家よりも裕に広い)で(無駄に軟らかすぎる)ソファーに座りながら問いかけてきた。
裏路地から連れてこられた私は、男に代わり落ち着いた雰囲気のある初老の女性ホテルスタッフ(気品があるし、もしかしたら、オーナー夫人?)に案内され、風呂に入れられ(贅沢に湯がたっぷり)何故かぴったりサイズの赤茶色で黒のレースが美しいドレス(触り心地はベルベットのように気持ちよくあきらかに高そう。ご丁寧に背中には切れ込みがあり翼も綺麗に出せる)に着替えされられ最後にソファーへと連れて来られた。
向かいに座る男は、外で会った時よりも甲冑を脱ぎラフな格好になっているが、やっぱり服は黒を基調としている。
外の様子は、カーテンをしていて見えないが、色々していたのでもう、夜の20時くらいかな。ランプと蝋燭の明かりにより室内は照らされていた。
ちなみに2つのソファーの間にはテーブルがあり(コレも細工が凝っていてた買そう)その上には、美味しそうなご馳走が並んでる。
「痴漢するような男に名乗る名前無いわよ」
会うたびに睨み続けたのでいい加減こめかみが痛くなってきたが
こっちにも意地がある。
お腹が減っていたけど、手を出せそうな雰囲気じゃない。
例え食べれそうな空気でも、食べてたまるか。
「う~ん、困ったなぁ」
口では困ったといいながらも顔は笑っている。
「それじゃ、あの村で色々調べさせてもらおうかな。
すぐに素性が分かるよね。
もし、喋ってくれないようなら
ちょっと強めに村人たちにお願いさせて頂く事になるけど」
本日二度目のゾクっとした感覚が私を駆け巡る。
痴漢男ならぬ、今度は脅迫!? 脅迫男だ!!
「ちょっ・・・村の人は関係ないでしょ、分かったわよ、脅迫男。」
つい、脳内で考えていた呼び方が口から洩れる。
「脅迫男とは、ひどいなぁ。
俺はちゃんと名乗ったよ、『レイヴィル=ノワールディア』だ。
レイヴァンと呼んで、よろしく……そして、君は?」
慇懃なほど丁寧な仕草と共にレイヴェルが再度、促してきた。
「……『ユーナ・C・ミナミ』よ。」
ため息と共に私は、答えた。
財布やマントを盗んだ事を咎めてなら自警団に引き渡せばいいし、踵落しを恨んでならそれこそ、こんな待遇はありえない。
相手が何を考えているかがわからない状況が、実は一番怖い。
緊張からか、それとも柔らか過ぎるソファーのせいかお尻も落ち着かず、モゾモゾする。
レイヴァンの態度が初対面の頃と違って、妙に優しすぎる、それに目つきが妙に熱い気がするし……。
「ユーナにミナミか……変わったなだな」
正確には『南 結菜』だけど、こっちの世界の人は、『ユーナ』って聞こえるみたい。
ミドルネームの”C”は、拾ったお爺ちゃんの名前『クロ-バー』。
顎に手を当て少し目を伏せた後、再び紫の瞳をこちらに向けたレイヴェン。
「ユーナ……あの時、一目見た時から君を忘れられない。こんなことは、初めてだ。
だから、俺はあらゆる金と人力を使い手段君を探し出した。」
「?」
「俺の物になれ、ユーナ」
「????」
「妻として……王都に来ていただく」