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目覚めた先は○○だらけ。

「お譲ちゃん、よく食べるねぇ~」


 頭上から急に声が掛けられ、ユーナは思わず帽子に触れる。


(うん、ずれてない)


「お友達ぃ、落ちちゃったわよん」


「えっ友達?」


「ちがったぁ~? じゃぁ、家族ぅ?」


「……家族?」


「足元、足もとぉ」


 ザインが地面に転がっているのが、ユーナの目に入る。

 どうやら、帽子を触った時に、落してしまったらしい。


「友達……家族……あっ」


 ヌイグルミと喋っている姿は見られたらしいが、普通それが動くヌイグルミとは、誰も思わない。

 ユーナが一人、腹話術しながらヌイグルミと話をして遊ぶ子供に見えたようである。


「ありがとうございます」


 慌てて落したザインを大切そうにする演技・・で、抱き上げると、頭上を見上げお礼を述べる。


「いいえ、どういたしましてぇ。むしろ、驚かせてゴメンネェ~」


 見上げた先には、妙齢の女性がにこやかに手を振っていた。

 金色の髪飾りを付けた腰まである、ふわりとした内巻きカールする赤毛も印象的だが、何より薄手の生地を重ねた服から覗く褐色の肌がより目に付く。

 紐で止めるタイプの服なのだろうが、半分以上が解けており、窓から下にいるユーナを覗き込む姿だと、重力に引っ張られ、豊満な胸元が、今にも全てが零れ落ちそうになっている。


(何食べたらあんなに大きくなるんだろうね、ザイン)


(わ……わたしに聞いても分からぬに決まっておろう。今、集中して演技しているのだから邪魔をするな)


(ハイ、ハイ、分かりましたよ……あ、落ちた)


「何!? おっぱムギュツ」


「演技中なんでしょ」


 ダラリと脱力してヌイグルミ演技をしていたザインが、「落ちた」の一言で力の限り動き出す。

 そんな彼をユーナは速攻で首を締め上げ、魔力を吸引ドレインし、落とす・・・と、彼女の足元に落ちたものを拾おうと屈んだ。

 

「……花の?……髪飾り」


 その髪飾りは、一見いっけん、幾何学模様に見えるが、よくよく見れば細かな花を幾重にも繋げて出来た模様であった。

 長年使ってきたのであろう。

 あらゆる箇所に細かな傷が入り、鈍く、くすんだ金色で地面の上で輝いていた。


(え、割れた……!?)


 精緻な模様の中心が、ユーナが手にした途端に綺麗にパックリ割れたのである。


「ごめぇ~ん、髪飾り落としちゃったぁ。今から取りにぃ降りるから、待っ」


「いえいいえいえいえいいえいえっその様な薄着でおり、おりてぇ~来られたら風邪ひいちゃいますデスネ。持っていきます!!」


「えぇ? 別にコレ普段着だから大丈夫よぉ~?」


 「いつもその格好なんですか!?」と、いう突っ込みは心の中にしまい込み「行きます!!」「絶対に持っていきます!!」と、重々告げると、その場を離れ建物の入り口を探す。


(あの位置の窓だと、褐色のお姉さんが住んでるのはこの辺りかな……)


 食料エリアの市場があった通りの反対に出たユーナは、髪飾りの持ち主のいる建物を探しつつ、物陰も物色する。

 幸いにも夜間営業している店が立ち並ぶエリアだったようで人気は少ない。

 その上、あちらこちらに朽ちかけている資材や、不法投棄されている木箱があり視覚も多い。


(何というか、コリャ凄い治安の悪そうな場所にでた……まぁ、ちょっとだけだし大丈夫よね)


 誰も自分に注意が向いていないのを確認すると、長年使われていないのが一目見ただけで分かるワイン箱にザインをぶち込み、急いで首もとの石に触れて念じる。


(お姉さんが来る前にしないとっ。補給チャージっ……)


 急激に頭や手足が重くなる倦怠感。


(やっば、やり過ぎたかな。慌てると、まだ駄目ね)


「ウワァ、何だココは。虫がぁ」


「ウルサイよ。取り合えず、至急コレをくっつけて」


 腐敗した食品や木に集まった足の数が異様に多い虫や、テラテラとした粘液に包んだ体を妙にウネル虫の数々におののくザインを一喝すると、ユーナは髪飾りを押し付ける。


「ヒィヒィィ……する、するから早くココから出してくれ」


 何度も情けない悲鳴を上げつつ、ザインは髪飾りを受け取る。


「くっつけるだけで良いからね。細かな傷は、残してよ」


「ウヒィ。細かい注文じゃアワァワ」


 後半、もう言葉になっていないザインは、それでも一流を自負するだけの技術まほうで継ぎ目無く仕上げる。


「わぁーさっすがー」


 ユーナは受け取り、髪飾りを光にかざし、鈍く、くすんでいる、その仕上がりに満足する。


「はやく助けぇア゛ーーーーーーー」


 脅え戸惑うモフモフなヌイグルミも可愛いかなっ、もうちょっと放置したいなっと、ユーナは思うも、この野太い声が腹話術で自分が出していると周囲に思われるのも嫌なので、ザインを助け出す。


「この髪飾り、窓辺にいたお姉さんの落し物だから届けるわよ」


 燃え尽き、力なく抱きか抱えられるザインを連れてユーナは持ち主のいるであろう建物の前に立つ。

 そこには『華ノ遊女家 ドラウ』と、飴色の木製看板が掲げられていた。


「はなのゆうじょや……?」


「娼館じゃのぉ」


 いつの間にか復活したザインは、ポツリと呟いたユーナの声に答えるのであった。

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