エイジング。
以前同様に、購入後すぐに裏路地に入り、人気の無いことを確認するとユーナは、手馴れた様子でナイフで背中に穴を開けた古着に着替えはじめる。
フードの付いた味わいのある茶色のマントを羽織ったまま、器用に淡い緑と檸檬色のレースの美しい部屋着用のドレスを脱ぎ、先程買った古着をマントの中で着込む。
「秘儀その2、女子の水泳授業時の着替え方法なり」
最後に簡単に結い上げた髪の上から帽子を被り、ユーナは自信満々にポーズを決める。
「なんじゃ、そのハシタナイ秘儀は」
「知らないの? 女子の水着の着替えは、ポンチョ型のタオルの中で手早くするんだから。しかも、プール後は大変、濡れて着替えにくくなるんだから。それに比べたら、少々レトロなドレスなんて屁の河童よ」
前世、病気を発症する前の事を熱く語るが、いまひとつザインには響いていない。そもそも、高価なドレスを身に纏う女性が、人手を借りずに着替えること自体、ありえないらしい。
そもそもプールとか、水着とか、ザインが知らない単語が多すぎて、一つひとつ説明するのもしだいに面倒になり、ふうっと息を吐いて気分を変える。
「どう、この格好。ただの町娘に見えるでしょ」
軽く膝下十センチのスカートの裾をつまみ、ユーナは、にこっと笑った。群青色のワンピースに、白色の腰からタイプのエプロン。いつもより小さくなった翼をマントで隠し、猫耳と瞳隠しにつばの広いシンプルな帽子を被っている。
マント以外は、古着。
それらは、所々痛み、少々の毛羽立ちがあるが、それが一層、町にいるありふれた娘らしさを醸し出していた。
おそらく、新品ばかりを身に付けていたら、これ程上手い変装にはならなかっただろう。
「まぁ、一見しただけでは、ただの娘にしか見えんじゃろう。ありふれた茶色のマント。それに、翼も耳も、いつもより小さく目立たぬ……瞳も、水色に近いが、帽子の下なら薄い紫に見えるしのぉ」
昨夜の月明かりでは気付かなかったが、瞳の色も変化が現れていた。
魚人特有の水色に、元来の色、おそらく赤系統が混じり淡い紫色になっている。
明るい場所では水色にも、見えなくも無いが、よほど深く確認しなければ分からない程になっていた。
「ちなみにマントは、事前にどう準備したのじゃ?」
「もちろん、こんなマントをレイヴァン達が私に用意してくれる訳無いから、自分で作ったのよ。夜な夜な、ひっそりシーツを紅茶で染めたの。茶葉や塩をひっそり手に入れたり、こんなレトロな色合い出したりするのが大変だったわ」
安全の為と用意されたユーナの部屋は、広々二十五畳程で、バス・トイレ付き。ついでに窓には鉄格子付きで、扉には常に”外”から施錠されており、至れり尽くせりな部屋。
そんな部屋のユーナの評価は、「立派な独房」である。
そこで彼女は、紅茶染めを行い「新しく綺麗な上質のシーツ」を「古びた風の布」にエイジング加工しマントに縫い上げたのである。
エイジング加工、それはこの世界の人には、無い発想。知ったとしても理解されない方法で、実際知ったザインも「なんて、ずる賢い」とは、思わず、普通に「無駄な技術」と、思った。
「じゃ、荷物まとめたし。次、つぎ~」
ユーナは、乱雑に先程まで着ていたドレスを袋につめると、ザインの柔らかな腕を掴み路地から出た。




