先立つものは、事前にね。
「全部で、これくらいで、どうでっか?」
「常連なんだよ、もうちょっと色つけてよ。おっちゃん」
「キッツイナー、常連って、まだ二回目やないの」
「キツイ、キツイ」と、言いつつも、ひょろっと背の高い、ちょび髭の親父は笑顔である。
彼の目の前のテーブルには、装飾品、メッキのネックレスや安価な宝石が埋め込まれたブローチ等が数々並んでいる。
「え~っ、そんなー。じゃ、この上着と、このズボンいくら?」
「二つで……こんなもんで、どや?」
「うーん、じゃ……その帽子オマケしてくれない」
「そうきたか……まぁえぇやろ、この季節、もう帽子もあんまり売れんし。もってけドロボー」
「ありがとう~」
買った洋服と、その金額分を引いた装飾品の買取金を受け取りつつユーナは、満面の笑みをフードのしたで浮かべた。
「また来るね~」っと、手を振りつつその場を去ると、親父も「まいどー」と、返す。
「その装飾品は、どうしたんじゃ? そもそも何故、金を持っておらんのじゃ」
次第に、古着屋の店主の姿が、見えなくなる。
その頃合を見計らって、つい先程までユーナの腕の中で、ただのヌイグルミのふりをしていたザインが小声を出す。
あの豪勢な館で過ごしていたわりには、安っぽい装飾の数々を不思議に思ったからだ。
「あぁ、えっと、お金は必要ないと、手元にくれなかったのよ。だから、前もって売れる物、準備してたの」
以前、ユーナは、さり気なく、一番ハードルが低そうなカインにお金を借りようとしたが、レイヴァンに禁止されていると、却下されていた。
脱走しようとする計画が、ばれても不味いので、それ以上迂闊に「お金を持ちたい」と、は言えない。
その為、換金しやすい物、安価な装飾品を「レイヴァンが買ってきた物より、別の装飾品の方が欲しいの。彼を傷つけたくないから、こっそり買ってきて」と、カインに頼んでいたのだ。
ちなみにカインが買い物に使ったお金は、『ユーナ用雑費』として、レイヴァンから支払われている。
しかし、明細な報告はされていないらしいので、この事はばれていないと、ユーナは計算していた。
「前もって……つまり、はなっから逃げる計画を立てていたんじゃな。どうりで、私が来てから、実行まで早いはずじゃ。でも、そんな小銭じゃ旅の道中、すぐに尽きるんじゃないか?」
「一応まだ、指輪とか、かさ張らないの持ってるし、大丈夫よ」
「ほぉ……しかし、そんな小娘の小遣いで買える様な安物の装飾品より、館の絵画一枚いや、スプーン一本でも、持ち出して売ったほうが、金になったんじゃないか?」
「そんな高い物、私の様な見た目、子供が質屋に持っていったって、怪しまれるでしょ。盗品だと思われて、自警団呼ばれても困るもの。屋台で売れるレベルの品が便利なのよ」
カインに頼んで買ってきてもらった安価な装飾品から得た小銭の入った布袋をしっかりと、懐にしまいつつ、ユーナは答えた。
ちなみに、もちろん、いざという時用にと、レイヴァンから贈られた高価すぎる品々も小さいのを見繕って、数点持ち出している。
「さぁ、着替えて。次の計画を進めるわよ」
そんな彼女の腕の中、「なんて、ずる賢い」と、いう言葉を、再びザインは飲み込みこんだ。




