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チラリと見えてますけど。

 スケティナによる劇的ビフォー・アフターで綺麗となったヌイグルミの体は、色々あって砂埃を被って薄汚れていた。そんな彼は、ベッドの上でジトリと半目でユーナを睨んでいる。

 正確には、ビーズの瞳の為、雰囲気が半目であるだけで、実際は相変わらず愛らしい真ん丸お目目めめであるが……とにかく、可愛らしい体全体で怒りオーラを醸し出していた。


「つまり、私の護衛兼、治癒的な存在で獣さんから使わされたの? あのザインが」


「私の名を呼び捨てをするな!! ったく、気が進まないが、オマエを”お婆ちゃん”と、呼ばれる歳まで生かさないと、私は一生、いや未来永劫死す事もできず、この姿のまま過ごす事になるんじゃ」


 輪廻の禁忌に加担したザインは、過度の未練の多さもあり、ユーナが”獣さん”と、呼ぶ存在に魂を喰われ消されかけていた。

 だが、獣さんによる罪滅ぼしの機会を与えると言う恩恵か、はたまた、ただの気まぐれか……ユーナの体液が付着したヌイグルミに、正確には、その首もとの紅いぎょくに魂を結びつけられた。

 その玉の正体は、神が作り出した物……付着していたユーナの体液を凝縮し、高度に結晶化した魔蓄石。

 故に、ユーナとの相性は抜群、容易に膨大な魔力の『補給チャージ』も『吸収ドレイン』も出来るらしい。

 元気な時に『補給チャージ』で魔力を玉に貯めておき、何かしらの不測の事態が起こったら『吸収ドレイン』で魔力を回復出来ると言った流れである。

 つまり、ユーナの意思一つで、魔力の出し入れが出来ると……。


「ちなみに、玉の魔力が尽きたらどうなるの?」


「私が動けなくなるし、何も感じなくなる……そうだな、さっきオマエが触れる前の状態になる」


「ふーん……じゃ、早速」


「マテ、マテ……オマエだって魔力が尽きたら死ぬんだぞ……私が居たら便利だぞ、だから、話を、いきなり、首元を触ろうとする、ちょーヤメデーェー」


 ユーナが獲物を狙う猫の如く、俊敏に右手を繰り出す。が、ザインは小さな体を生かし、さっと腕の下を潜り抜ける。

 そのまま距離をとろうと、走り出すザイン。だが、柔らかな足場で思う様に前に進めず、迫りくるユーナの左腕に左足をとられる。

 ザインは、動く右足で懸命に蹴り込むも、綿が詰まった体では大したダメージも与えれない。

 フカフカのマット上での攻防、じりじりとユーナの右手が玉に近づくにつれ、野太い悲鳴のボリュームも上がっていく。

 もう、数ミリで触れそうになったその時、ふいに扉が開かれた。


「ユーナ様、いかがされましたか?」


 あまりに騒ぎすぎた為、心配したカクティヌスがノックも無く部屋を覗いてきた。


「……うん?ぇ? ……何? 寝言でも言ってた?」


 ユーナは、さっと、掛け布団にザインを隠しつつ、もう一方の手で目元をこする。


「いえ……あまりに奇怪な声でしたので、その……ひょっとしましたら、また不埒な者が出たのかと思いましたので……」


 いつもなら歯切れよく答えるカクティヌスが、しどろもどろに、しかも、既に覗いていた顔を引いている。


「まぁ~色々あったしね。そりゃ、悪夢見て悲鳴の一つぐらいあげるわよ」


 「心配しないで」と、ユーナが付け加えると、納得したのかすぐに彼はその場を去った。

 去っていく足音が聞こえなくなるのを、ユーナは聴力能力が高い耳をピクピクと、動かしながら確認すると、ホッとため息をつきながら呟く。


「何で、すぐに部屋を覗くのを止めたのかな?」


「オマエ気付いておらんのか? ほれ、自分の足元見てみろ」


 掛け布団からモソモソ出てきたザインが、「さっさとカクティヌスガ居なくなってラッキー」と、ホクホクとするユーナに指摘した足元。

 そこには、ザインとの攻防で乱れひっくり返ったスカートとパニエ、さらにズワローズがチラリと覗いている。


「確かに、こりゃ品が無い。目も背けたくなるわ」


 上品な彼が、嫌いそうな姿だと、ユーナは納得した。


「いや、品とか以前に女性の下着が見えてたら、若い男なら目のやり場に困るからじゃろ」


「そりゃ、無いよー。以前、治療するのに胸を見せたけど、ぜんぜん動じられなかったし。緊急時だったはいえ、本当に何の反応も無かったわよ。その後、彼、私の事『嫌い』って言い切ってたし」


 ユーナにとってこの世界の下着、ズワローズは、チキュウでいう所の七丈のズボンの様で、見られてもさして恥かしいと感じるものではなかった。


「はたして……そう、なのかのぉ」


 嫌っている相手への反応には見えないと、腑に落ちないといった顔でザインはポツリと呟いた。

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