家事レベルは、いくつなの?
カインがションボリと部屋を出てからほどなくして、カクティヌスは部屋へと戻ってきた。彼の押すシルバーの台車には、ティーセットが用意されていた。
「ハーブ……キュアリスのお茶で宜しいでしょうか?」
前もって姉のスケティナから聞いていたのであろう。ユーナが、以前好んだハーブティの茶葉を用意していた。ユーナが要望すると、フワリと爽やかな香りが部屋中に広がる。
「ありがとう……で、良かったら一緒に食べない?」
育ちざかりで沢山食べるだろうと見越して買ってきたカインのお土産は、一人で食べるには多すぎた。
さらに、基本的にパンの美味しさは、デンプン老化が関係していて時間と共に低下するはずだと、思い出したからだ。
まだ、微かに熱を持つパンをこれ以上冷やし美味しさを逃すのも勿体無いと、貧乏生活が長い彼女は感じていた。
その為、嫌われていると解っていて誘ってみたが・・・・・・。
「ありがとうございます。けれど、私の様な従者に、そのような行為は身に余ります。どうぞ」
(ワカッテタケドネ!!)
予想通りだけれど、やっぱり拒否されたのにイラッとしつつ、ユーナはお茶を受け取る。
そして、カクティヌスは、また台車のある壁際に戻り、次の指示があるまで待つといった顔で直立していた。
(嫌われているのが分かっていて、目の前でご飯がオイシク食べれるかって!!)
食べ終わるまで動かないであろう、彼が目障りに感じたユーナは「用事があったら呼ぶから、出て行って」と、ぶっきらぼうに呟いた。
その指示通りに彼は、出て行こうとしたが、何かを思い出した様に不意に立ち止まり台車の下段から何かを取り出した。
「ユーナ様、お食事中申し訳ございませんが、次にいつ会えるか分かりませんので」
と、綺麗な布にくるまれた物、大よそ40センチ程で横にも奥行にも厚みがある物を差し出してきた。
急な事でキョトンと躊躇したユーナ。
そんな彼女を見て「食事の邪魔になる様でしたら、棚の上に置きましょうか?」と、カクティヌスが背を向けようとした所で慌ててユーナは、それを受け取った。
見た目の大きさに反して、とても軽く、そして軟らかかった。
艶やかな光沢の布をソッと、開けると中には、見覚えのある物。
「これって・・・・・・あのヌイグルミ? 同じメーカーのヤツを探してきてくれたの?」
記憶にあるネコのヌイグルミよりもかなり、いや、別物と言ってもいい程綺麗だった。
綻んでいた跡もなければ、煤けた跡も、血が付いた跡も見当たらない。
さらに首元には、愛らしく赤い玉のペンダントまでついている。
「いえ、あの時の物でございます。姉が持っている全能力を駆使して修繕いたしました」
(どんだけ、裁縫&洗濯能力高いんだよ、姉さん!!ってか、力の無駄遣いだよ!!)
おそらく、21世紀のクリーニング屋でも無理なレベルだと、感心しつつユーナは、内心突っ込んだ。
「そんな忙しいのにわざわざ・・・・・・」
他にやる事無かったのかと、半分呆れつつヌイグルミを持ち上げるとキラリと赤い玉が光る。ほのかに光り続けたように見えるのは、明るい部屋の為、そう見えただけだろう。
「借りを作ったままでは困るので、修繕して返ししただけの事です。けっして、ユーナ様の為に修理したのでは無いです」
いつもなら冷ややかな目で慇懃に話すカクティヌスが、目を逸らし、急いだ感じで部屋を去ろうと背を向け話す。
(普通・・・・・・ここまで、シナイよね?)
借りを作るも何も、私が攫われたのを助けに来てくれて巻き込まれたわけだし、そもそも今の激務の合間に修理なんて・・・・・・と、ユーナが悶々と考えている間にカクティヌスは部屋を出かけていた。
「これ、部屋で食べなさいよ!!」
さして、良い思い出のあるヌイグルミでは無いが、わざわざ修理してくれた礼にと、断る隙を与えず強制的にパンを詰めた袋をカクティヌスに渡すユーナであった。




