現れた痴漢男。
「おっちゃん、コレいくら?ちょっとまけて、コレも買うからさ」
森の近くの町、宿場として栄えている町の屋台。
村では見かけない、彩り様々の生地と服が並んでいた。
新品から中古まで。
価格もピンからキリだが、村育ちの私にはやや高く感じた。
購入したいのは、古着の男物、旅芸人の少年が着ていた古着らしい。
若干大きいも裾を折れば着れなくも無い。
どうしても胸に合わせるとやや大き目を選ばなければいけない。
向こうも商売、ひょろっと背の高い、ちょび髭の親父が「まとめてそれなら1000Gでどうやっ。」と、値段を掲示。すこし不服だけど、あまりここに長居も出来ない。支払うとすぐにその場を去った。
「このマントも売れば、路銀稼げたのになぁ」
思ったより黒髪の男が持っていた財布のお金が少なかった。耳や羽を隠す為に使った上質な黒色のマントも売りたいところだけど、下手に売れば、もしあの痴漢男が追いかけて来た時に手かがりとなってしまうので売るに売れないのである。
裏路地の物陰で寝巻きである薄手の服と奪ったマントから先ほど購入した服へと着替える。
長い髪をざっくり三編みにし背中の翼や頭の耳と一緒に浅黄色のマントの中に隠し着替え完了。
ぱっと見、少年にしか見えない姿となった。
聞けば、ここは住んでいた村からかなり離れているらしい。
信じられない事に3日ほど薬で寝かされていたみたいだ。
女の足では、7日以上かかってしまう。
飛べば多少、時間が縮まるかもしれないが、人間の国で飛べば、翼人が出たと騒ぎになるかもしれない。
もう、日も暮れかけている。
お腹も減ってるしとりあえず、「ご飯だ」と、路地から出ようかと腰を上げた時、裏路地が似合う方々が3人。
すでに酔っているのであろう、奇声と罵声と悪臭を出しながら近づいてきた。
彼らとは、逆に進もうと足を出すもその仕草が気に入らなかったのだろう。
一番小柄(私と同じくらい)なチンピラA(チビちゃん。今、命名した)が「ぼ~やぁ~、こんなトコで何してるのぉ?おつかいかい?」と、絡んでくる。
避けるように歩き出し無視をするが、さらに気に食わなかったらしい。B(中肉中背君)とC(マッスル君)もヤイヤイと近づいてきて取り囲まれてしまう。
「すまないが、急いでいるので……」
なるべくを目を合わせないよう俯き、逃げ口を探す。
「そぉ~いわないでっさっ。おじさんと、お話しよう」
馴れ馴れしく肩を叩いてくる中肉中背君。
(――気持ち悪いっ)
ゾワァ・・・全身の鳥肌と共に吐き気がした。
「ぉ?意外に華奢だねぇ~おじさんとお酒飲もうか」
気持ち悪さを抑え丁寧に断るも酔っ払いには通じるわけも無く、
「顔も肌も綺麗だぞぉ~。それより、お酒より気持ちイイコトしようか?」
チビちゃんも低い背を活かして覗き込み左手で手をサワサワ触ってくる。
それに気をとられていると右手がすっと胸を揉み……
「こいつやっぱ女だぁ。やっちまおいぜ。」
背後のマッスル君も共に来いと、頷いている。
(バレタ! 災難って続くの!? 逃げなきゃ)
足を出そうとした時、中肉中背君が後ろから羽交い絞めにしてきた。
(――ヤバイッ)
布の引きちぎれる音、弾け飛ぶ木製のボタン。
露わになった私の胸を見て喜び下種な笑みを浮かべる男達。
「イデェ!!」
中肉中背君が急に左足の甲を押さえて座り込む。うまい具合に甲を踏みつけれた。そこを突破口に逃げようと体をひねり走り出す。汚い裏路地のゴミが散り砂埃が舞う。
(――足の速さには自信がある)
ごみごみした迷路のような路地を走り距離を離す。この世界では、倫理観が低い者は、とことん低い・・・いや、無い。
人身売買がいまだに横行しているような所だってある。つかまれば、生死さえ危うい。
先ほどからこれだけ騒ぎが起きているも裏路地の住民達は、家屋から出てくる気配がない。こういった所に住む人々は、何かしら後ろ冷たい事を持っておりトラブルには関わりたくないのだろう。
もう、大丈夫かと思った矢先、
(――甘かったっ)
慣れない町の路地で行き止まり。
しかも、大声で罵声を上げながら相手は確実に追ってきている。
いっそう飛んでしまおうかと上を見るも人が一人通れる程の道では翼も広げれない。
走ってきた事より身の危険に怯え……鼓動が早くなり破れた服から見える胸が上下に激しく揺れる。手がじっとりと汗ばむ。3人はもう、その角のにいる……。
「ガハッ!!」「グゥッワァ!!!」「ワァンッ!!」
罵声を上げていた汚い声が、急に悲鳴に変わった。
(何なの!?)
角から現れたのは……
「痴漢男!?」
正直、悔しいくらい見た目が綺麗なセクシャルハラスメント男。
踵落しと色々と盗んだのを根に持って追ってきたのか?より一層早くなる鼓動。
煌き透き通る紫の目で見られ緊張で目が回りそう……。
「やっ・・やっと追いついた……
お手間おかけしました、レイヴェル様。」
さらに後ろから、ゼイゼイと、息を切らしやってゾロゾロやって来たのは、胸に片翼と剣の紋章を着けた人々。
痴漢男に声をかけたのは一番偉そうな髭を生やした人だった。
胸に片翼と剣の紋章、それは各町を警邏している自警団の紋章である。