丑三つ時の実験大会(3)。
(この人た……ち……に…………レイヴァンに関わっていたら平々凡々な生活送れないはずなのに……)
ユーナは自分を振り回す彼らの、いや彼の存在が日に日に大きくなっているのを自覚し始めていた。
前世では、16歳直前まで生きたが、病気が原因でどうしても本や漫画、ゲーム……一人で過ごす時間が多かった。また、それらから得た知識のせいもあって同じ年頃の子より達観したした所もあり、あまり気の合う友人とも巡り合わなかった。そんな女子に恋愛経験がたいして有る訳も無く、初心なユーナは、現状の気持ちを上手く整理できていなかった。
(そのうえ、レイヴァンは甘い言葉の裏に何時も何か隠しているし……この能力目当てなのかも……)
悩むも答えは、出ない。そんな彼女の気持ちとは、うらはらに実験準備は着々と進んだ。
とりあえずの的として、用意されたのは予備で準備されていたランプ。10メロル、メートル法で表せば10m位先の岩の上におかれた。
ちなみに「動く方が良いのでは?」と、カクティヌスが”ウサギ”を提案したが、姉の「ディナーで使う」主張があっさりと通り、却下となった。数時間だけ、寿命が伸びたウサギは、そんな事情も知らずノンビリ餌の葉野菜をモシャモシャと食んでいた。
「さあ、ユーナ……手を……」
まるでエスコートするかのように軽く膝を地に着き、形の良いスラリと長い指、掌をユーナに差し出す。いつもレイヴァンから(ユーナの意思とは、関係無く)触れているのだが、今回はユーナが自分の意思で触れなければならない、そういった状況であった。
「う……うん」
ただ、そこに手を添えるだけだが、緊張してしまうユーナ。レイヴァンは、それを急かすわけでもなく、ゆったりと待ち構え続けた。
(じ……自分から触れにいくって、何だか……すごく、恥ずかしいよ…………)
それを彼らの後ろに避難している3人は、三者三様でそれを見ていた。微笑ましそうな顔、厳しい目の顔つき、羨ましそうな顔……ユーナの視界に入らなかったのは、彼女にとっての幸いであったろうといったそれぞれの面持ちであった。
1分程かけて、レイヴァンの手にユーナが触れると、急に彼の手が動いた。大事なものを包み込むかの様に力強く、けれど柔らかく握ってきたのだ。綺麗な指がユーナの指に絡む。性別さえ超えた美しい手だが、直接触れることでユーナは気づく。彼の手は、何百もの戦いを経験し、実践で鍛え抜かれたものである事を。
「さて、初歩の……一番簡単な魔法、小さな炎を出してランプに当てるよ」
心臓が潰れそうな程、動揺しているのユーナをよそに、レイヴァンは詠唱をはじめる。魔法を習う際、最初に教わる炎の魔法。彼は今、それを使おうとしている。
『小炎召喚』
いつもの透き通る声で詠唱を終えた瞬間--術者本人も、魔力源も、そして避難していた3人も皆、絶句し目を見開いた。
小さな火の玉が出没するだけの魔法が、光線の如く煌き、一つの紅蓮の炎となって一直線に発せられたのだ。
仄かな月明かりだけでは、遠方の様子は知ることは出来ないが、明らかに何かが破壊されている音が彼らの耳に入った。
彼らが4キロル、キロメートルで表現すれば、おおよそ4km先の山が半分程消失したのを知るのは、数時間経った夜が明けた後である。
これが、シエルス・セルバースが調査している事件の真相である。




