丑三つ時の実験大会(1)。
ユーナがアルジュアナ王妃に攫われた事件より7日後、それなりに皆の傷が癒え始めた頃--日本で俗に言う『丑三つ時』に、開けた丘の上で集まっていた。
明かりは、数本のランプだけで薄暗い。
彼らの手には様々な武器、皿、石、動物、はたまた注射器等、千差万別。
その中から一つ、皿を小柄な少女に渡すと、それを手に彼女は念じる様に力を込めた。
ユーナにとっては、目に見えて何かが変わるわけではない。気配が違うと言えばいいのか、口では上手く言えないが、些細な違和感を手にした皿から感じ取る程度。しかし、魔法の学がある者が見れば、一目瞭然らしい。
「スケティナさん、お願いします」
「凄いですわ、ユーナ様。魔力の尽きた魔蓄石入りの皿が、再び力を取り戻しましたわ」
スケティナと呼ばれたメイド服に身を包んだ女性が、皿を受け取るとそれを少し離れた場所にいる背の高い黒服の男性へと運ぶ。
「レイヴァン様、どうぞ」
宮廷作法に則った優雅な動きで差し出す。
「今までの常識では考えられないが……ユーナには、特殊な力が備わっているみたいだな」
皿を丹念に確認しながら満足げに声を漏らす。
彼のすぐ傍に用意された簡易テーブルの上には、二つのグループに分けられた数々の品が並んでいる。
「魔蓄石及び、それに類似する成分が入った無機物は、見事に魔力の補充されていますね」
薄暗い中でもわかる程、メイド服を着た女性と似た特長を持つ青年がそれらを整理しながら驚きのあまり声を出す。
「せやけど、あんまりやりすぎると真っ黒コゲになっちまうのは、問題やねぇ。カクティヌスはん」
魔道具、炎系高級医療器具の刃物-日本でいうところ、電気メス-だった物は、今では漆黒の消炭状態。丸い眼鏡の奥の瞳に悲嘆を浮かべながら、うな垂れる男性が呟く。
「触らないでくださいね、カイル様。今一度、レイヴァン様が検分しますから」
カクティヌスは、ピシャリとカイルの手を叩き、牽制する。
「本当に何でも実験するんだね。だけど、生き物まで試すとなると、緊張するというか……なんだか、罪悪感が……ね……」
カイルが涙目になっている時、ユーナは、テーブルの上にある籠の中で毛皮モフモフ、鼻をヒクヒク動かすウサギを眺めつつぼやいた。
「安心してください、ユーナ様。私達も、レイヴァン様も確認した所まったくもって、ウサギには影響は無いようですわ」
(それって結果オーライだっただけであって、もしかしたらウサギが消炭状態になったかもしれないんじゃ……)
ユーナは、人類の生活の質の向上の為に動物実験がされるのは、前世でもあった事で、頭では必要な事と理解はしていた。それでも抵抗を感じる自分のエゴに内心、ため息をついた。
そんなユーナの姿にスケティナが励まそうと声を上げた。
「色々お力を使われてお疲れですか? ユーナ様。……そうですわ、そのウサギをディナーで美味しく料理いたしますわ、食べ物は粗末にしてはいけませんものね。宜しいですか? レイヴァン様」
主の「好きにしろ」との許可を得て、さらにやる気を出すメイド兼シェフがにこやかに微笑む。「肉料理は精が付きますわよ」と、まで付け加えている。
その台詞に、苦笑しつつ、今晩のご飯は辞退しようと心に決めるユーナであった。




