過去最高サイズ!!
証言者その1、パン屋の看板娘R。
「パン屋の朝は、早いんです。そう、どのお店より早いんじゃないかな? だって、お客さんが『朝ご飯』や『お昼のお弁当用』のパンを買いに来るのが、8時の鐘が鳴る頃だもの。それに合わせて、焼きたての美味しいパンを用意する為に、早朝から用意するの。一番手間がかかるのは、クロワッサンかな。でも、手間をかけて生地とバターを重ねた分だけ、サクサクで美味しくなるの。うちで一番人気なんです……あ、話がそれてますね。ごめんなさい。あの山の事ですよね。なんて言ったら良いのかな。もうすぐ夜が明ける位かな、ちょっと休憩に外に出たんです。雲もなく、今日も晴天かと思っていたら、急に遠くで、えっと西の山の方で雷鳴みたいな音が響いたんです。その時は晴れているのにおかしいな? って思う程度だったんですが、後で店に来たお客さんに聞いてびっくり。西の山が半分消えてるって話じゃないですか。もしかして、あの雷鳴みたいな音が関係しているのかな? 直接その瞬間そっちの方をみて たわけじゃないから、気のせいかもしれないんですけど……一瞬、光った様な気がします。一直線に、こう、シューンって感じだった様な……。とりあえず、私が見たのはこの程度です。そろそろ良いですか? 店の女将さん、時間に結構うるさいんです。でも、その分、キッチリしていてお給料もバッチリ時間分くれるので問題ないんですけど。結婚資金準備中なんです。では……クリームパンお買い上げありがとうございました。是非、今度は、クロワッサン食べてくださいね。売り切れちゃうの早いので、午前中に来ることをお勧めします。それじゃ」
証言者その2、町のナンバー1娼婦E。
「あ~……何? 客? まだ、商売の時間じゃないのぉ。申し訳ないんだけどぉ~また、夜に来てくれる? え? 話を聞きたい? 事情聴衆ぅ? 新しいプレイか何かなのぉ~? あ? 純粋に聞き込みに来ただけ? もぉ~まだ、眠いんだから、早くしてよぉねぇ。例の山が消えた件? あー、店主と話したあれかぁー。確かに見たわよぉ。客のぉ……そう、あの客ちょーマニアックでねぇ、聞いてくれるぅ? 奥さんの服持ってきてねぇ『これ着てヨロシク』って言うのよぉ~。どうやら、奥さんの尻に敷かれてるみたいでさぁ、プレイ中ずっとぉー、えぇ? そんな事より、山の話をしろって。何よぉ~こっちは、ただで話をしてあげてるんじゃない? もぉ~、男ならどぉーんっとさぁ、話を聞くって態度見せても良いんじゃない? まぁ、世の中の男がしょーもないのは、娼婦が一番よく知ってるんだけどさぁ。例の山の事ね。客を送り出して、店に戻ろうとした時にねぇ……なんて言うのかなぁ……でっかい、違う、そう、細長くって早い流れ星がアッチからソッチに飛んでいったのが見えたわぁ。その後、地鳴りのよぉな、う~ん。まぁ、変な音がしたような? 気にせず、すぐに店に入ったから音は気のせいかもぉ? アタイが知ってるのはぁーこれだけよぉー。 一眠りしたら思い出せるかなぁ? もういい? じゃあねぇ~、次はぁ、夜に来てねぇ、顔がタイプなの。だ・か・ら……サービスするわよぉ、バイバイ」
目撃者たちの話をまとめると、早朝、時計を見た者がいない為、正確な時間はわからない。が、おおよそ5時頃と思われる頃。東の丘から西の山に向かい何らかの光線が放たれ、その後、音が響いた。夜が明けて目視できる時には、すでに町から4キロル離れた西の山が半分ほど消えていた、と……。
「って、どう報告書あげれば言いだよぉー!! そもそも、何で女共は、関係ねー話ばっかりするんだよぉ。可愛い娘に限ってお手つきだし!! せっか……」
中の酒がテーブルに飛び散るのも気にせず、手にしたグラスをドンッと叩きつけながらシエルス・セルバースは、叫んでいた。が、それはすぐに声を潜めた。
体格の非常に良い酒場の店主の力強い視線。空気の読める男と自称するセシルは、酔っていても察して、慌ててテーブルを台拭きで、くすんだテーブルを磨き上げる。彼の周りだけ、見事に磨き上げられ、まるで蜜蝋で仕上げたかの様に仕上がり、それに満足した店主は再び黙々と片付け作業に戻った。
シエルスは、領主代理からの指示で昨日、町の西方で起きた珍事件を調査中であった。朝からずっと町中、聞きまわって分かったのがこの程度である。
時刻は既に深夜と言っても良い頃。酒場もそろそろと店じまいに入っている。店に残っているのは、無愛想な店主と、ろくに話も出来ない程、酔いつぶれた客位である。今日の聞き込みは、「これで終了」と、カウンターの上に代金をキッチリ料金分払うと手荷物を持ち足早に店を出た。
店を出ると下町特有の不潔な生臭さが鼻に付き、思わず顔をしかめた。すれ違う人々は、酒臭い。たまに、今宵の金蔓を求める娼婦の化粧臭さも加わる。町は、すでに明かりが少なく薄暗い。
「ったく、こんなチンケナ町の調査なんてツイテネー」
金で成り上がった下級の貴族、黄晶貴族の次男坊のシエルスは、後継者争いと財産分散のリスクを避ける為、幼少期からこの地方領主の家に預けられた。
預けられたといっても客人の様に扱われるわけでも、まして家族の様に受け入れられるわけでもなかった。使用人のように働かされ、時に使用人に任せられない様な黒い仕事もこなしてきた。成人をとうに過ぎたが、親元に戻る事も無く、そもそも相続トラブル防止で追い出されたのだから戻れるわけも無く、結局のらりくらりとそこで働き続けた。
仕事さえこなせば、寝食困るわけでもなく、そこらの町に行けば女も買えるし、と彼自身、今の生活に満足とまでは行かないも不満は無かった。
だが、先日、住み込みをしていた館がたった一人の黒尽くめの男に襲撃され、領主が拉致される事件が起きた。あまりに唐突で圧倒的な出来事に皆が理解出来ぬ間に、国からの査察団が入り、気づけば領主交代の事態に至った。領主やその身内、癒着のある商人達には、投獄、資産没収等の相応の処分が下される様だが、使用人扱いのシエルスには、関係の無い話である。
面倒になったのが代理で訪れた領主の扱いである。謹厳実直な代理領主は、今までのような手抜きを一切認めず、少しでも不明な点が見られれば経費も落ちない。どんぶり勘定で、たまに飲み代や娼婦代も諜報活動代として請求していたのが、いまや不可能である。
遠方で起きた山の消失事件と小さな町との繋がりがあるとは到底思えないが、調査して来いと直々に命令が下った。
「やっぱ、関係ねーよなぁー。適当に仕上げて、遊んで帰るかなーっと、危ねぇ。子供が何でこんな時間に?」
ヌイグルミを手にし、全身マントに身を包んだ小柄な人物がぶつかりそうになるのをシエルスは、器用に避ける。しかし、避けた拍子に彼の手にしていた荷物がその人物の足に当たり、よろけてこけそうになっていた。
普段の彼ならヌイグルミで遊ぶような子供に興味も無く、そもそも自分に利益が無ければ紳士的な態度をとる事もない為、するはずが無いのだが……無意識に手を差し出し、肩と胸の辺りを掴み支える。
(クソ真面目な領主代理人のせいで俺まで真面目なキャラになっちまったか)
柄にもない事をしてしまい、内心悪態をつきつつ、とりあえず手を離そうとした時、不意に上質な石鹸の香りが彼の鼻腔に届いた。目深にかぶったフードからは、淡く輝く青銀のしなやかな髪が一房こぼれている。
よくよく掴んだ手に意識をまわせば、柔らかい。布越しだが、趣味女漁り、特技女遊びをしてきた彼には、この柔らかさは、わかった。
(……この胸は、過去最高サイズ!!)
至上の柔らかさを堪能しようと、煩悩が暴走しかけるも、微かに残る理性と、ここで紳士的にし、上手く行けば直に触れるチャンスが来るかもしれないと下心が働き、手を離す。もちろん、彼に出来る最高レベルの爽やかオーラを醸し出しながら。
「お嬢さん、お怪我はありませんか?」
ここが明るい日の元であれば、キラリと、白い歯が輝かんばかりに微笑を浮かべつつ言い放つ。
今まで出会った町娘は、大概この笑顔で好意を得れた。ちなみに笑顔のバリエーションは、熟女用、娼婦用、使用人用等13種類用意済みである。
「スミマセン、ありません、では」
早々に自分の用件を伝えた女性は、身軽にひょいと彼の横を通り過ぎるとそのまま角を曲がり去っていった。
「って……おぉ~い、この笑顔みても……って暗くて見えないのかよ」
一人、敗因を冷静に分析しつつ追いかけ、角を曲がるが、そこには既に彼女の影は無かった。
「…………娼婦でも買うかぁ」
シエルスは、手に残る柔らかさを噛み締めつつ、昼間あった娼婦の店へと足を運んだ。




