私の方が絶対……。
「夜着のままでは冷えますので、どうぞ」と、姉上は、ベッドで体を起こした状態のユーナ様を気遣いクローゼットからショールを取り出すと肩にサッとかけました。
こういう所が、さすがだと思います。特殊な趣味や悪戯癖さえなければ、なお優秀な使用人だと思います。
「ありがとうございます」
心遣いにユーナ様は礼を述べると、姉上は微笑みながら一礼し一歩下がりました。その微笑には「当然の事をしたまで」と、物語っておりました。
姉上がこちらをチラリと見ます。これは、合図。入れ替わるように私は、ユーナ様の前に出ます。
ふと窓のほうを見れば、カイン様は、椅子に座り好奇心に満ちた目で私の言葉を待っておられました。怪我等の処置を見る限りかなり優秀な医師で助かるのですが、余計な事に首を挟むのはいただけないと思います。
「失礼します、では……」
私は、かいつまんで説明をはじめました。
「意識を戻した時、そこにはもう誰も居らず、そして、気を失ってどれ程の時間が経ったか、分かりませんでした。時計を探したが、残念ながらリシュルの魔法攻撃により跡形もなく壊されておりました。城に再び連れて行かれたか、洞窟の外に逃げらたか、私にはわかりませんでした。迷いましたが、洞窟の出口を目指すことにしました。洞窟の出口の方が近かった事、そして、出口には馬を用意しておりましたので、もし、出口に向かわれていたのなら馬に何らかの反応があると思いましたから。」
「ほぉ、そうなんや。それで? それで?」
この空間で一番関係のない人物が、相槌を打っております。何故、こうも部外者なのに関わってこようとするのか至極分からない。患者の私事を楽しむなんて、医師としての誇りは無いのでしょうか。人の失敗に対して不快行為までしますし。
「カクティヌス、どうしました?」
「いえ、何でもありません。それで、洞窟の出口に出ましたが馬にそういった様子はありました。その為、早急に城に戻ることにいたしました。洞窟経由の通路は、既に敵にばれておりますし、馬も使えず時間がかかるので使いませんでした。馬に跨り、地上より城に向かいました。城まであと少しとなった頃、城の裏からかなり強い光が発せられました。」
「あ、それってレイヴァンの魔法ね。おそらく、高位の『解除魔法』って言ってたっけ? 魔法陣をおし…り……」
ユーナ様が私の話に説明を付け加えられます。ただ、途中から何かを思い出されたのでしょうか、急に赤面され黙られてしまいました。
「なるほど、そうだったのですね」
姉上も納得したという感じでした。事前に姉上には、救出の際の経緯を説明しておりましたが、どのようにレイヴァン様、ユーナ様が戦われたのかは、その場に居た方々にしかわかりませんから。
「私がその場所、光が発せられた場所に到着した時には、レイヴァン様とユーナ様が泉の淵に倒れておられました。用意していた馬、そして少し先に隠しておりました馬車にお二人を乗せ、こちらまで案内いたしました」
「検査したんやけど、ユーナちゃんはホンマに原因不明の意識不明状態やった。レイヴァンは極度の過労やな。魔蓄石の魔力で魔法を使うといっても、生身の人間が高位魔法を使えば体にはかなりの負担やろうし、かなり無茶な魔法を連発したんやろうな」
医師としての見解を述べるカイン様。ただ、あまりに口調が砕けすぎておられ……レイヴァン様を呼び捨てするのは如何なものでしょうか? レイヴァン様はそれをお許しになさっているのでしょうか? 気になりますが……
「そういえば、レイヴァンは?極度の疲労って一週間も寝込んでるの?」
ユーナ様が急に焦った声を上げられました。今の今までレイヴァン様の事をお忘れになっていたようです。何故、レイヴァン様はこのような女を好まれているのか分かりません。聞けば、粗暴のようですし。私の方が絶対……
「今、隣の部屋で休まれておりますよ」
姉上の説明の声で私は我に帰りました。余計な事を……と、つい思ってしまいました。何故なら、レイヴァン様は……
「ユーナちゃん!?」
先ほどまでユーナ様が居た場所には、ショールが落ちているだけでした。ユーナ様は、既に隣の部屋にある扉のドアノブを握り締めておりました。




