彼女に逆らってはいけない。
弟によって姉の悪戯は、露見た。
しかし、悪戯の張本人は余裕の笑み続けながらを続け口を開く。
「貴方の早とちりですよ。落ち着きなさい。ユーナ様の前ですよ、使用人としての誇りはどうしたのです? 如何なる時も笑みをうか――」
「すみませんでした、姉上。いや、大変見苦しい所をお見せいたしました、ユーナ様。無礼千万なことと、謹んでお詫びを申しあげます」
姉の言葉を遮る弟の声、その顔には部の悪そうな表情は、もうそこには無かった。
凛とした真面目な顔、初めて出会った頃の彼に戻ってユーナに向かい謝罪していた。
「私も弟を使用人としての教育には、厳重に注意を払ってまいったつもりでございますが、このようなことになり申し訳ございませんでした」
弟の無粋な行為を姉もまた、深く謝罪する。
――謝罪の言葉が重っ、ってか、絶対怒ってるよね? カクティヌスさんの目が笑ってないよっ。
スケティナの底知れぬ腹黒さの恐怖にユーナは、もう笑うしかなかった。
「アハハ……気ニシナイデッ、何モ気ニシテナイカラ」
首をぶんぶん振りカタコトに謝罪の言葉に対してこたえた。
「その優しきお言葉に、心よりお礼申し上げます」
カクティヌスは、お礼の言葉を口にするがやっぱり目の奥には怒りの炎が、チラついている。
「アハハハハ……そっそうだ、私ってどうなってたのかな? ここって宿屋でしょ、連れ去られたお城からどうやって帰ってきたのかな?」
「そういえば、オレも知りたい。詳しい事、何一つ教えてくれんし」
重い空気に耐え切れないユーナは話題を変えようと、気を失っていた時の事を教えて欲しいと尋ねると、カインもまた同調する。
好奇心旺盛なカインの場合は、重い空気云々より、相変わらず秘密厳守で部外者の自分には何一つ教えてもらえない現状を変えようとしているだけだが。
「わかりました、ユーナ様。説明させていただきますが……」
そう、口にしながらカクティヌスはチラリとカインの方を見る。「この男が無関係だけど如何しましょう?」と、表情が物語っている。
「なんや。また、オレ除け者かいな」
しょんぼりとカインが落ち込む。
「え~っと、一応お医者さんみたいだし、看ていただいた恩もあるし……同席させてあげない?」
余りにしょげる顔が情けなく、ユーナは思わず助け舟を出す。
それでもなお、「部外者が」と怪訝そうな顔をするカクティヌス。
先ほどの女装の件で爆笑されたのも密かに根に持っているようである。
「カクティヌス、ユーナ様に意見する気ですか?」
スケティナが微笑を浮かべながらも有無言わさない口調で言い放った。
彼女に抗う事等カクティヌスには、いや、ここに居る誰もが彼女に対して意見する事等出来ないのであった。




