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二卵性双生児。

「ユ・・・ユーナさ・・・ま?」

聞き覚えのある声に振り向けば、窓とは反対側、扉のあたりにたたずむメイド服の女性が目に入る。


「スケティナさん??」

さらに輪をかけて間抜けな声だが、ユーナには取り繕う心の余裕は無かった。

よくよく見れば、ここは最初に泊まった宿屋似た作り、いやおそらく同じ宿屋の別室だろう。

同じような調度品や、窓の作り、扉の細工等があちらこちらに見られる。


「お気づきになられたのですね。」

スケティナの予想を上回るほど元気な起床に心の底から嬉しそうに彼女は言う。


「えっと、お久しぶりでいいのかな?おはよー。」

ユーナは、体を起こし、とりあえず弱弱しく挨拶をする。

そして怖いが恐る恐るビンタした見ず知らずの男に視線を戻す。

金髪に褐色の肌の男。

髪より落ち着いた金瞳、そこに丸い眼鏡がかけられている。

清潔感のある白いシャツに黒に近い灰色のズボン。

こちらの視線に気づいた彼がニコっと愛嬌のある笑顔を向け


「はじめまして、町医者やっとるっと、今は町医者は弟に任せてるから、今は君らの専属医をやってるカイスクレル・ラフェルや。

 気軽にカイルって呼んでや。

 聞いていた以上に愛らしいお譲ちゃんやね。」

町医者にしては、派手な容姿に軽い口調、スケティナの時と同じように挨拶をした。

違うと言えば、ぶたれた頬を痛そうにさすりながら・・・という点である。


「お医者さんだった・・・の?」


「そうや、数時間前まで脈も体温も全て正常・・・って、逆に一週間も寝ていたにもかかわらず全く持って何も異常ないのも異常おかしいんやけど・・・。

 まぁ、そういうわけで正常値を叩き出してたんやけど、さっきは急に脈拍は上がるわ、体熱感は上がるわっでケッタイナ数値になったから検査しようとしてたんや。」

つまり、ユーナの一人勘違い。

穴が合ったら入りたい、いやそれ以上、穴が合ったら入っていっそ埋めて3年くらいほっといて欲しい、穴は何処?何処なのよ!!位な気持ちになる。


「ユーナ様気にされることございませんよ。

 不快に感じられたのでしたら、可憐なユーナ様に対して、この男にやましい気持ちの一つや二ついや、三つ四つ・・・・数えれぬほどの悪しき感情があったのでしょう。

 頬をぶたれて当然ですわ。

 それにユーナ様に対しての口の聞き方が失礼極まります。

 ご命令いただけましたら斬り捨てて差し上げます。」

微笑みながらスケティナが恐ろしいことを言う、青い眼が笑っていない。

そもそもこの部屋で一番やましい気持ちを持ってそうなのは、彼女の気がするがユーナは口に出せなかった。


「うちの患者さん達は、みんな綺麗ベッピンやけどキッツイなー。

 まぁ、綺麗なのはいいことや。

 そもそもやましい事なんて一回もしてないし思ってないよー。

 信じてやっ、常にスケティナ譲ちゃんが睨んでたし。」

勘弁してくれといわんばかりに軟派な口調でカイルは呟く。

さらに、口調を改める気等さらさらない様子である。


「まぁ、お二人さん元気なのはええんやけど、”意識不明で重体さん”に”失血で重体さん”なんやから動き回るのは程ほどにしてや。」

相変わらず軽い口調だが、医者として二人をたしなめる。


「失血?重体?」

前者の病人は、明らかに自分のことで、後者は・・・あと、この部屋に居るのはスケティナだけである。


「ユーナ様に余計なことを言わなくても宜しい。」

きつい視線をカイルに向けながらスェティナはユーナがそれ以上何か聞きたそうにするのを遮った。

ユーナが双方の顔を何度も見て情報を得ようとするがどちらも口を開かない。

ビンタしたカインに謝りたいもそれも難しそう・・・重い空気が流れるが、ノック音によりそれは破られた。

スケティナがユーナに目をむけ、「開けても良いか?」といった目線を向けると、この空気に耐えれないユーナは頷いて許可した。

「どうぞ。」と、スケティナが入ることを許すと・・・彼女と同じ顔付き、けれど服装はメイドではなく、ごくありふれたデザインだが上質の生地で作られたのが一目でわかるジャケットにズボン、男性用の使用人の服を着た人物が入ってくる。


「カクティヌスさんっ。」

別れた後、無事だったことに安心する。


「ユーナ様、お目覚めでございましたか。

 失礼しました。」

慌てて目を伏せ謝罪のお辞儀をする。

そして、すぐに部屋から出ようとする仕草をする。


「えっとえーっと、あの鎖から助け出してくれてありがとう。」

慌てて呼び止める。

最後までとは、行かなかったがカクティヌスの手助けが合った事で助かった事に感謝しユーナはお礼を述べる。


「私のような使用人に対して身に余るお言葉ありがとうございます。」

姉のスケティナとは、対照的な冷たい視線と声色。

やっぱ、嫌われているんだなっとユーナは改めて感じた。

あれだけの危機を共に過ごしても嫌われているとなると、気の短いユーナでさえ、怒るよる先に「よっぽど何か事情があるのだろうか」と心配をしてしまう。


「こちらこそ、救出をする所か・・・足手まといになり本当に申し訳ございませんでした。」

冷たい・・・そんな印象ばかりを与えるカクティヌスだったが、この台詞だけはユーナには心がこもっているように思えた。


「いえいえ・・・そんな、あんなピンチな時はお互い様でしょっ。」

手を振り、こちらこそありがとうございますと、再度お礼を述べる。

そんなユーナの出方をカクティヌスは見つめ・・・。


「私的な件ですが、ここで少しお時間いただいてよろしいでしょうか?少々姉と話をしたいのですが。」


――姉妹での話をするのにもわざわざ許可取るってどんだけ固い人なんだろー。

貴族に仕えるってこんなにも大変なのかと、平民生活しか知らないユーナは驚きつつ、「御気になさらずどうぞ、どうぞ。」と、許可を出す。


「姉上・・・ユーナ様は、非常に大変な目に遭われ、レイヴァン様以外の男性とは、話も出来ない状態。

 男性恐怖症になられているという事の真偽について聞きたいのですが・・・?」

”聞きたい”と、お願いする形をとっているが明らかに確定的に攻めてる口調でカクティヌスがしゃべる。


「・・・・は?」


――何だその設定、私ってそんな可憐でか弱いキャラだった?いやいやいやいや・・・怒るとツイちょっとだけ手が出るけど、そこまで男を毛嫌いしてないよ?

 確かに攫われたり、町で暴漢に遭いそうになったり苦難の連続だったけど。

 そもそも一番警戒しているのはあなた方の主、レイヴァンだよ。

もし、この世界に”鳩が豆鉄砲食らったような顔”という、表現があるならまさにユーナはそう言った顔でカクティヌスの言葉を聞いた。


「あら?ワタクシその様な事を貴方に言いましたか?

 ユーナ様はココに来られるまで男性の方々に酷い目に合わされたので男性の姿では警戒してしまうと、後から到着した貴方に姉としてアドバイスして差し上げたまでですわよ。」

シレッと、”聞きたい”事に対して答えるスケティナ。


――アレ?なんだろうこの会話・・・何かおかしい?

 これじゃぁ・・・まるでカクティヌスさんが・・・

ユーナは、瓜二つの二人の顔を改めてみる。

ホクロの位置さえ違うが、細身でスラリと背が高い所や濃緑の髪、切れ長の青い瞳・・・美しい二人の容姿はそっくりを通り越して同じと言っても過言ではない。

一卵双生児だとしてもココまでそっくりになるとは思えないレベルである。


「・・・えっと?お二人は双子の姉妹しまいなんですよね?」

会話に口を挟むのはどうかと思ったが、ユーナは思わず声が出る。

その言葉を聴いて初めに口を開いたのは、一番関係のない人物であった。


「ぶふっ・・・あはっは~っひぃあはっ」

腹を抱えてカインが爆笑する。

可笑しくて仕方がない、といった感じである。


「ユーナ様、貴女は一つ勘違いなさっているので訂正させていただきます。」

ひとしきりカインが笑い転げた後、カクティヌスが心から不服そうな声でしゃべり出す。


「私たちは、双子の”姉妹しまい”ではなく、”姉弟きょうだい”でございます。」


「つまり・・・?オトコ??

 エーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッこんなに美人でスカートも似合ってたのに男!?」

ユーナの驚きの絶叫声を聞き、やっと落ち着いていたカインの爆笑が再びスイッチオン。

もう、床に転げそうな勢いで笑い続ける。

スケティナも声にこそ出していないが、愉快なものを見る目でユーナとカクティヌスを見ている。


「アヒャッヒィ・・ヒィ・・・まっ・・まちがいなく、クック・・・ヒィ・・男だよ、帰還したあと・・・診察したし・・・アハ・・間違いないっ。」

カインが半分笑いながら付け加える。


「私が男性恐怖症だから女装してくれてた・・・ってこと!?」

女装させられていた本人、カクティヌスはムスッとして何も答えない。


――どうりで初対面から嫌われているはず・・・って悪いのは私じゃないよね?騙したのはお姉さんだし!!

何だか腑に落ちないが、嫌われている理由わけはユーナは理解した。

平素から女に間違われるような顔してるのに女装までさせられたら・・・言わずもがなである。

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