ひゃんっ。
次に目を覚ました時、ユーナは左側臥位、つまり左向きに横を向いて寝ていた。
寝返りを打とうとするも背中にある物がつっかえて思い通りにならない、モゾモゾと2、3度挑戦してから思い出す、”背中の翼が邪魔で出来ない”という現実に。
仕方ないのでうつ伏せになり、それから右向きにへと寝返る。
ユーナの閉じた瞳越しにでもわかる程度に外が明るい。
――あぁ、うっとおしい・・・楽に寝返れない・・・。
もう夜が明けたかな?だるいなぁ~でも・・・
畑に行かなくちゃ、野菜がそろそろ収穫できたっけ、試作品の花もそろそろいけそうなはず・・・。
改めてチキュウ(みなみ ゆうな)の時の体との違いを実感しながら眠気と葛藤する。
肌触りの良いシーツが気持ちが良い、微かに甘い、チキュウの花で言えばラベンダーのような香りがする。
――あれ?うちのシーツってこんなに上質だったけ?それに石鹸にラベンダーっぽい花を使ってたっけ?
気持ちが良すぎる寝具のせいで考えるのも苦痛な程眠たいのだが、生まれた違和感は次第に大きく膨らみ、最終的に嫌な予感となる。
そうなれば、次第と目が冴えるのが道理である。
――きっと目を開けたら、また、レイヴァンが優雅にお茶してたりとか、えらく色っぽいメイドさんが微笑んでたりとかするんだろうなー。
お約束の展開が安易に想像でき目を開けるのが嫌になる。
気がついた事がバレたら、面倒である。
もし、相手が不在なら都合が良い、その隙に逃げ出す為の準備もしなくては。
そうなれば、このままでいる訳にもいかない。
そう、ユーナは思い・・・おそらく居るであろう人物にこちらが起きたことを気取られない様に薄ら目を開け様子を伺うことにした。
窓から入る日の光で逆光となり、薄ぼやけた輪郭しか見えない。
――居る・・・。
人が居る事で、本来なら逃げる機会を失い落胆する所だが、それより先に安堵する気持ちが生まれた事に自分で驚く。
今はそんな感情を気にしている場合じゃないと、自分を叱咤し観察を続けた。
椅子に腰掛け、何か作業、探し物をしているようにユーナの目に見えた。
何かしらの物の下にあったのだろう、すぐに目的の物を探し出すと腰をあげこちらに近づいてきた。
――ヤヴァッ、こっちくる。
別に(彼女にとっては)全く悪い事をしているわけではないのに妙に鼓動が早くなり、顔に血が上るのがユーナ自身わかった。
息苦しいほど呼吸も荒くなっていくが、彼女は何よりこの体の異常を相手に気取られたくないという感情が彼女の中の最優先事項となった。
少しでもばれぬ様にと目をギュッと瞑ると、全身が緊張し難くなった。
そんな彼女の心情など何も知らない相手は、彼女に掛かっていた布団を胸の下の辺りまで剥がし・・・そして、彼女の手を取った。
「ひゃんっ」
なんとも間抜けな音がユーナの口から漏れた。
「?」
握った相手が一瞬ビクッとするが、少し間をおいてさらに触れてきた。
今度は両手で。
男性特有の少し骨ばったユーナの手に触れる度に彼女は声を押し殺すのに必死になる。
触れてきた手が、ユーナの手を優しく包み込むように握り・・・数十秒の時が経つ。
ユーナにとっては、永遠とも思える時間であった。
だが、それは終わりを告げる。
ユーナの手は、解放されたのだ。
――よっし、よっし、よーっし。
そのまま、去れっ、私はまだ気失ったままだという事にしておいて!!
全身全霊をもって、まるで呪うかの様な勢いでユーナは心の中でガッツポーズしながら願う。
しかし、その願いはすぐに叶わず彼女を更に窮地に追いやられる。
先程の手が、首に触れてきたのだ。
同様にとても優しく、そっと・・・。
声こそ出さないが、鼓動はもう限界といって良い程、早鐘を打っていた。
――もう、無理無理無理無理無理無理無理無理無理ッ。
今にも声に出してしまいそうな気持ちを何とか押さえつけながら必死に彼女は耐えた。
微かに全身が震えだす。
頭が真っ白になる程、眩暈がする。
今まさにギブアップしそうになった時、男の手はユーナの衣類、ボタンに手をかけた。
「ふざけるなぁ!!寝ている女性に触れるなんて最低!!レイヴァン!!」
ユーナは、怒りに任せ叫び、カッと目を見開き、ボタンに触れていた手を叩くとその手を相手の頬へと打ち込んだ。
部屋に響き渡るビンタ音。
そして、しばらくして・・・次に出た音はユーナのとぼけた声だった。
「・・・・アナタ、ダレ?」
聴診器を首にかけた褐色肌に金髪の青年に向かって問いかけた。




