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ダブって。

――さむっ。

ユーナは、朦朧もうろうとしていた意識から一番に感じとったのは、冷たいと言う感覚だった。

そして次は、不快感。

全身にまとわりつく濡れた服と長い髪の毛が何とも気持ちが悪い。


――あれ?

それに、長い髪はリシュルとの戦いで自ら切ったはずである事も。


『忘れておった。』

先程、別かれたはずの獣の声が頭の中に響く。


『汝が魂を戻す際、ついでに体の傷等を治しておいた。

 傷ついた体に戻った所で傷から病のもとが入り込み、早々に死んでしまっては土産話がつまらぬ。』

つまらぬと言う理由でいとも簡単に治せるなんて、さすが神様とか呼ぶ人がいるだけの事はあるなと、今更ながらユーナは、自分が出会った存在がいかに強い力の持ち主であったかを思い知った。

髪が短いままでも病気にはならないので長さを戻す必要があったのかと思うが、それも獣にとっては些細な事なのであろう。

話題にも上らなかった。


『汝を守る為に使いも送ろう。

 好きに使うが良い。

 汝が死ぬ時を楽しみに待っておる。』

それは、それはご丁寧にどうもと、通じるかどうかとわからないが内心呟く。

にしても、死ぬ時を楽しみにしていると言われるのもユーナは、奇妙な気分であった。


別れの言葉の後、強い眠気が襲い掛かる。

今にも再び意識を失ってしまいそうな感覚の中、背中や尻に触れるざらついた地面の感触が彼女に不快感を与えた。


――背中に地面が触れるって・・・?

平素から仰向けに寝る事など困難であったことを思い出す。

何故なら、ユーナの背中には翼があるから。

仰向けに寝るなど、チキュウの頃、以来である。

他人事のようにのんびり思考していると、頬に痛みが走る。


「・・・ュ・・・ナ・・・・ユ・・・・ユー・・ッ・・ユーナッ、ユーナ!!」

同時に悲壮な声も彼女の耳に届く。

必死に、形振なりふかまわず彼女を呼びわめく。

頬を叩く手も微かに震えている。


「・・お・・・かあさ・・?レイ・・・ヴァ・・。」

ユーナが目を開け初めに見たのは、悲壮な声よりも震える手よりも酷く怯えた表情かおをしたレイヴァンであった。

その姿に一瞬、前世の母の姿とかぶる。


――見た目所か、性別も・・・住んでいる世界でさえも違うレイヴァンと母がダブって見えるなんて・・・。

何故そうなったか理由わけが分からず困惑し原因を考えようとするが、ユーナの発した言葉に喜ぶ男は考える暇を与えなかった。


「ユーナ!!」

耳鳴りがする程の大声を出し歓喜。

濡れた黒髪が頬に張り付いているのも払おうともせず、言葉を続けた。


「もう、俺の前から消えてくれぬな・・・。

 ともに生きてくれ・・・。」

紫の瞳に涙を浮かべながら願った。

そこには、英雄として崇められる黒騎士の姿は無かった。

あるのは、まるで少年の様な純粋な瞳であった。


「・・・それが、願いなの?」

真剣な眼差しを一身に受けながらユーナは問う。


「あぁ・・・。」

レイヴァンは、目を細め、深く頷き強く強くユーナを抱きしめた。

水に濡れた冷たさも不快感をも忘れさせる程の温かい抱擁に包まれながらユーナはまた、意識を失った。

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