大事な事なので2回言いました。
先程と同じ青空の下、同じ草原の上。
だが、そこに1m程距離を置いて対じしているのは母と子。
「お母さん・・・。」
”南 結菜”は、黒髪黒目、あどけなさの残る顔と体つき、”ユーナ”の時とはかけ離れた容姿。
生前、数か月しか着なかった紺のブレザー制服からも、もちろん翼も無ければ尻尾も生えていない。
けれど、瞳の奥に見える力強い光は紛れも無く同一人物と連想させた。
「結菜・・・なの?結菜・・ごめんな・・・さい・結な・・・私が悪ぃ・・結菜・・・・ゆぅ・ごめぁ・・・」
子の名と謝罪を叫びながら泣き崩れる老婆。
後半はもう嗚咽と咳込みで言葉になっていない。
母と呼ばれた人物は、子の知っている母よりかなり老いていた。
幼い頃に亡くなった祖母に良く似た顔付きであるが、間違いなく母。
自分の死で母が歳相応より老いた姿になってしまっているのを目にし、子は喉に重たい物が詰まる息苦しさを感じた。
「ゆぅ・・・な、わたしぃ・・・・早く・・・気付けば・・・・げん・・・きなから・・・だ・・・・・・。」
泣き声だらけの声だが、母の考えている事が子に伝わる。
ここは、心の中の声が相手に伝わる場所だから。
母は、悔いている。
”自分が病気に早く気付いていれば”、”自分が病の無い元気な体に生んでいれば”・・・・”あなたを死なせたのは自分のせいだ”と。
子は、顔を覆いなき続ける母の老いた手を握り、積年心に留めていた言葉を口にした。
「――悲しまないで。
私は幸せだったから・・・。
笑っていてほしい
これからもずっと・・・。」
母は、さらに激しく泣き崩れるもその姿は次第に老婆から中年の女性に変化していった。
それは、結菜が生前知っている姿。
咳込みながらも懸命に息を整え立ち上がると子の体を抱きしめた。
「私も・・あな・・た・・・と過ご・・せて・・・・」
泣き過ぎて声がかすれ、途切れ途切れになりながらも続ける。
「いえ、それ以上・・・に・・・ゆうな・・・が・・・」
さらに強く子を抱きしめる。
かすれていた声が次第に芯の通ったしっかりした物になっていく。
「生まれてきてくれた事が、幸せ。」
子は、小さく頷いた。
「結菜は、親孝行な娘。
私たちの所に生まれてきてくれた。
世界で一番の幸せをくれた親孝行の娘よ。」
母の姿が次第に淡く光り霞んでいく。
「これからは笑って過ごすわ。」
その言葉を残し消えた。
子の頬に一筋の涙が流れた。




