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”十一”は法律違反だから。

ユーナは、気づくと草原の中で倒れていた。

低木さえない、ただ芝のような草が繁茂はんもしているだけの広い広い草原。

360度、何処を見渡しても地平線が見える。

上を見れば青空が広がり真昼のように明るいが太陽は見当たらない。

暑くも無ければ寒くも無い、風も感じられ無い。


――あれ?レイヴァンは・・・?気を失っていたのかな?

体をゆっくりと動かす、先程までの麻痺する感覚は不思議なほど全く無かった。

よくよく自分自身を確認すると一夜にして負った怪我の数々から切れた髪の毛まで元通りになっている。

さて、とりあえずどうしようかと思案していた時、視界に動くものが現れた。

目の前に現れた生き物、それは、人から百獣の王と呼ばれる獣――ライオン。

普通のライオンでは無かった。

左眼に赤、右目に水色を宿し、艶やかな漆黒の毛並み、背中には純白の翼を生やしていた。

少なくともユーナが今まで見た事があるライオンとは、かけ離れた姿。

神々しく威厳の満ちた風格。

動くたびにたてがみが美しく波打つ。

ゆっくり・・・ゆっくり・・・と、こちらに歩み寄ってくる。


「・・・っ。食べられる??」

ユーナの知識では、ライオンは肉食。

食べられたらたまらないと、逃げる為に立ち上がろうと腰を半分上げた時――

心の中に直接響く不思議な声で足を止めた。


『我のこの姿見て・・・そのような台詞を言った者は、汝が初めてだ。』


「しゃべれるの?本当に食べない?」

ユーナは自殺願望も無ければ、お腹が減ってる獣の為に自らを犠牲にする程の動物愛も自己犠牲心も無い。

目の前が肉食獣が現れたら逃げる。

自分が食べられる立場になれば他の生物同様、生き延びる為に抵抗する。


『少なくとも今、汝の魂を食うことは無い。時が満ち必要になればいずれ、行うかもしれぬが。』


「やっぱ、食べるんじゃん!!」

まぁ今は大丈夫ならいいかと、ユーナは半分上げた腰を下ろした。


――まさか、騙して安心させてからパクっとする気じゃ・・・。

ちらりと内心、不安が過ぎった。


『その様な不埒ふらちな行為もせぬ。』


「・・・・あれ?私声に出してた?騙すとか。」

気まずそうにユーナは、獣に問いかける。


『出しておらぬ。』

つまり心の中を読まれたとユーナは理解した。

本音と建前が区別できなくなれば、コミュニケーションする上でもいや、それ以上に逃げ出す為に交渉する上でも不便な事この上ない、手の持ちのカード丸見せでババ抜きしているようなものである。

さて、どう対処しようかと模索した時、地鳴りの様な重低音の笑い声が響き渡った。


『実に愉快。生きる事にこれほど執着し思考しこうをなす者もまた、汝が初めてだ。賞賛に値する。』

ひとしきり笑った後、獣はユーナを褒めた。


「いや、別に褒めて欲しいわけじゃないし。

 そもそも食べないなら・・・何の用事?えーっと、獣さんって呼べばいいかな?」

どうせ、全て思ったことがばれてしまうならさっさと終わらせようとユーナは用件を聞き出そうとする。


『我を獣と呼ぶか、毛の生えた生物の姿をしているのでそう呼んで違いは無いな。

 好きに呼ぶが良い、ある者は”神”と、別のある者は”死の使い”とも我を呼ぶ。

 何と呼ぼうが我は我なり、問題は無い。』

はぁ、そうですかと、声に出すのが面倒になりユーナは内心で返事をする。


「・・・・って神だの死のナンチャラだのって、私死んだの?」

思いのよらぬ単語を聞き、驚きのあまり声を出す。


『そうだとも、そうでないとも言える。』


「人の生死をとんちみたいに答えられても困るんですけど・・・。」

ユーナが足を投げ出し、「じれったいなー。」と、呟きながら頭を掻き毟ると自身の両手からそれぞれ1本ずつ糸の様な物が出ているのに気づく。

左手甲から出ているのは、黒い糸。右手甲から出ているのは、白い糸。

双方、ふわふわとたるみ浮いており、その先は青空まで続いていた。

触れようとするもそれは叶わなかった。

光線に触るかのごとく通り抜けてしまう。


『それは、過去のしらがみと現世の柵なり。』


「また、とんちですか。」

ユーナは「何でやねん。」と、思いつつも獣が答えてくれないなら考えるしかない。


――生きてるとも死んでいるとも無いって単純に考えれば、真ん中とって仮死状態ってことかな。


『そうなり。』

正解したら、ちゃんと肯定してくれるんだと安心し、次の問題に手をつける。


――しがらみって・・・世間のしがらみとかで使うよね、こうついてまわる存在とかう~ん、引き止める存在みたいな。まぁ邪魔物ってイメージもあるけど。

 私にとって過去は、記憶が無い頃?いや、獣は言ってた”魂を食う”って。

 過去、現世ときて魂なら・・・生まれ変わり、輪廻転生りんねてんせいの事でチキュウの事が過去、異世界が現世なら。


『さして難しい話ではないだろう。』


「それなら、さっさと教えてくれてもいいじゃない。」

ふくれっ面をしながらユーナが文句を言うがこたえる様子も無く獣は続けた。


『汝の左手甲から出ている黒い糸は、過去の世界に繋がるなり。

 右手甲から出ている白い糸は、現世の世界に繋がるなり。

 選ぶが良い。』


「いきなりですね。」

あまりの展開の速さにまず突っ込まずにはいられない。

選ぶにしても説明が無さ過ぎると、ユーナは情報を求めた。

こういった大事な事は、納得がいく最後まで聞いておかないと失敗する。

テレビドラマの悪徳金融物だと、こういった展開の時、たいして説明もせずにこやかに契約書にサインさせて・・・。


後日、ヤクザが「おら!金返さんかー!!」ってやって来てくる。

そして、よく言えば優しそうで悪く言えば頼りなさげで優柔不断そうなおっちゃんが「そんな話が違います、貸した金の倍の利子が・・・。」って怯えながら言う。

すかさずヤクザが「あ”?ここに書いてるやろ?利子は”十一といち”ですって。」って契約書の一番下のほうに細かい字で書いてあるそれを指差す。

「そっそんなー、うちにはまだ幼い子がいます。払えません。」泣きながらおっちゃんが言うけど・・・容赦無い取立ては、おっちゃんの人生を狂わしていく・・・。

おっちゃん、負けるな!!”十一”は法律違反だから訴えるところに訴えたら勝てるよ!!


『・・・そろそろ良いか?』


「いや、心の声が聞こえるのに突っ込まないから延々脳内妄想してました。

 まぁ、とにかくお願いします。」

突っ込まなかった方が悪い的な雰囲気をユーナは出しつつ、図々しく説明を求めた。


『ほんに愉快。之ほど愉快な思いをしたのは、蔓延はびこった恐竜が滅んだ時以来なり。』

さらりと、何万年前の話ですか?的な事を口に出しながら抱腹絶倒な勢いで笑っているが、これ以上話が進まないのも面倒になりユーナは無心を心がけ、突っ込まない。


『汝の左手甲から出ている黒い糸を辿たどり過去の世界、主の言葉でチキュウに戻れる。

 チキュウの輪廻に戻る事となる。

 右手甲から出いる白い糸は現世の世界に戻れば、今の主の体、ユーナ・ミナミが生き返る。

 主の言葉で異世界の輪廻に組み込まれ、永遠にそこで転生していく事となる。』


「チキュウに戻れば・・・”みなみ 結菜ゆうな”として生き返るの?」


『否、チキュウの輪廻に戻ることが出来るのみ。

 死して時間が経ち、朽ちた体には戻れぬ。

 愉快な思いをさせてくれた礼に転生先を好きな種族、親、容姿、能力、環境・・・全てを考慮してやる。』


「そうなんだ・・・。

 じゃ、こっちでお願いします。」

ユーナはあっさりと決め、選んだ方の手を獣に向け差し出した。

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