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淡い月光で青白く光るそれは・・・。

 ロットが振り上げられるとユーナ達の背後より咆哮が響き渡った。

 その声の主は、鬱蒼うっそうと茂る木々をもなぎ倒し姿を現した。

 月光の下、その姿の全貌が明らかになる。

 狭い室内で頭部の辺りしか見えなかったが、今では躍動感溢れんばかりに動かすたくましい尻尾までが現れている。

 澄んだ水で構成された体は、全長10m程だろうか、竜ではなく、龍。

 蛇を獰猛に大きくすればこういった姿になるのではないだろうか、ユーナはその姿見て改めてそう思った。


「レイヴァン、これ使える?」

 チラリと襟ぐりを自分で軽く広げ、ふところのポケットに隠してあった物を見せながらユーナは囁いた。

 頭一つ、いや三つ程高いレイヴァンに小さな声が届くか不安であったが杞憂きゆうであったようだ。

 本人に言わせれば「愛しのユーナの声、いや吐息といき一つ残らず聞き漏らすことはしないよ」とキスの一つ位しながら言いそうなものだ。


「なかなか魅力的な……胸だね」

 今まで見た笑みの中で一番の笑顔でレイヴァンは囁き返した。


「違うっ」

 声は潜めたままだが、繋いだ右手に思いっきり力を込めながら突っ込む。

 所詮しょせん女の力、鍛えられた男の手にいくら力を込めようが痛いはずも無く、レイヴァンは眉一つ動かさない。

 いや、むしろ強く握られて嬉しそうな気配さえしている。

 ムスッとユーナガ不機嫌そうになるとさすがに真面目な声で質問に改めて答えた。


「あぁ、癖があるが使えるよ。貸してくれるかい?」


「……どうぞ」

 レイヴァンは右手に握っていた漆黒の剣を腰の鞘に仕舞うと受け取った。

抜け目が無いユーナにお褒めのスキンシップの一つでもしようとレイヴァンが思ったその時異変が起きた。


「ユルサヌゾッ!!」

 獣の様な鳴声しかあげなかった水龍が、突如とつじょ声、人の声を出したのだ。


「な……何?」

 ひるんだユーナをなぐさめる様にレイヴァンは軽く手を握る。蛇のような巨体の水龍が次々と泥を吸い上げ、その大きな体の質量を上げていく。

 吸い上げた分、肥大化していった体は、次第に幾つもの新たな突起を作り出す。

 そして形成していき出来上がる、数多あまたの頭。


「ヤマタノオロチみたい……」

 目の前の光景に驚いたのは、ユーナだけでは無かった。

 相変わらず顔には出ないもレイヴァンもまた、同じであった。

 なぜなら、この水龍の変化は魔法の法則ルール上有り得ない事だと理解わかっているからだ。

 リシュルは魚人であり水を操るのみ可能であるはず。

 泥のもと、つまり土を操れ無いはずである。

 各種族には、正確には各個人の魂は生まれながら加護を受ける精霊が一つと決まっている、使える魔法は一つ法則ルール

 何処かに獣人が居るのだろうかと周囲にどれだけ気を配ろうとも、敵は……リシュルとアルジュアナの水で出来た偽体の気配しか無い。

 そして、レイヴァンはそれ以上にこの現象が不可能である理由も理解わかっていた。


「そもそも同時に異種族の魔法を構成するなど、理論上ありえないはず」

 レイヴァンの呟きをリシュルは聞き漏らさなかった。満足そうな笑みを浮かべ告げた。


法則ルールなどに縛られているから分からないんだ、君達は。良くみたまえ」

 リシュルが指差した先は、数多にある龍の顔の一つ。

 その額といえる場所に、何か光るものが浮かび上がる。

 淡い月光で青白く光るそれは……


「ハゲ頭!!」


「ダマレ!!」

 ユーナの言葉に間一髪おかず怒鳴り声が水龍より返ってきた。

 ユーナには、このやりとり覚えがあった。

 よくよくみれば三角の物、獣耳が二つ頭より生えている。


「ザインが……埋め込まれている?ザインが居るから泥を吸って大きくなった……?」


「その通り、ユーナ様。理屈は簡単です、水龍の魔法式のプログラムの中に獣人の魂も組み込めば良いだけですよ」


「それって……退治したら、その魂て」

 どうなるの?と、ユーナが声を出す前にリシュルに阻まれる。


「壊れますよ。水龍が退治されれば、そのプログラムも崩壊となりもちろん、そうなります」


「なんて非道な……」


「彼もそれが分かった上で参加されているのですから、気にすることはありません」

 心置きなく戦って下さいと、リシュルは付け足した。

 そんなやり取りのさなか、隣のアルジュアナは時間が惜しいのか、小さくだが苛立ちを目に浮かばせリシュルを見ていた。

 むろん、それにリシュルはすぐ気づき、機嫌を損ねぬよう「すぐに終わらせます」と女主人に告げた。


「リシュルは本当に遊ぶ……弄ぶのが好きで……アルジュアナは、何か急いでる感じが……」


制限時間リミットがあるなら勝機も見えてくるだろうね」

 ユーナの小さな呟きをレイヴァンは、そう返した。


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