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踵落としにご注意ください。(2)

「最近物騒になってきた」


 数十年前に人攫いが横行した話とか、魔法を使う為の道具である魔蓄石が減りその新たな採掘をめぐり各国が動き出しているとか、この前会ったパン屋のオバさんが言ってたっけ?


「まぁ、こんな田舎の村にまでは関係の無い話さ」


 と、オバさんが立派なお腹を揺らしながらケラケラ笑ってその時、話は終わった。


(けれど、気のせいかな? 見知らぬ人、しかも見かけが目つきがあまり宜しくない……正直お近づきになりたくない雰囲気満載の人をこの村でも見かける事が増えたような……)


 気をつけていたつもりだが、うっかりとミスをしてフードが外れてしまった。

 仕方ないのだが、フードで視界が悪くなると、人にぶつかりやすくなる。

 気を引き締めなければ……。

 とりあえず、ウジウジしても仕方ない。

 家の鍵(っと言っても木製のドアに横木を挟み開かなくさせるだけだが)をして、日の高いうちから家にこもる事にした。

 やりかけであった内職の裁縫をしながら時間を潰し、日が暮れる前に買い置きの干し肉と野菜のスープに硬くなったパンを浸して食べ日が暮れると共にさっさと寝た。

 うん、こんな時は引きこもり&早寝に限るよね。


 それで、寝ていた際、カタンっと微かな物音がしたんだ。

 人より優れている獣型の耳がそれを聞き漏らさなかった。


(ネズミが野菜を齧っているのかな?)


 そんな些細な音だけど、胸騒ぎがした。

 気になり枕元の護身用に置いていたナイフ片手に玄関を兼ねた台所のある隣部屋へと向かった矢先、黒い影が覆いかぶさってきた。

 一瞬身を引いて避けるも、さらに影の数が増えた。


(多勢無勢・・・4人以上いたかな?)


 ナイフで抵抗する間なく、あっという間に押さえ込まれる。


「コイツか?」


「暗くてわからないが、一人しかいねぇ、間違えないだろう。縛っちまえ」


「女か……後で遊んでもいいかな?」


「そんなの俺に聞くな」


(ちょっ、何!?)


 反撃もすることも出来ず、ツンっとする……生の葱の様な臭いのする布を嗅がされ、気づいたらこの状態。

 簀巻き&猿轡だったのだ。




 一応ダメもとで身をよじってみるも不恰好に巻かれた縄は意外にもしっかりとしており、緩みそうに無い。

 諦めて他の方法を探ろうと耳を澄ませば、車輪の音以外に数頭の馬の蹄の音といななきが聞こえる。


(襲った他の奴等は、個々に馬に乗っているのかな)


 そう判断しながら虎視眈々と隙を狙うも……状況は、変わりそうに無い。

 こうなれば、後は着いた矢先で逃げる方法を模索するか、「こんな姿だけど、どの種族の魔法が使えない、残念でしたと」告げて逃がしてもらうか


(後者はかなり危険、遊郭か見世物小屋に売られるかも)


 と、次なる一手を考えていた矢先……馬の蹄の音が増えた。


(仲間が増えたら厄介だなぁ)


 ゲンナリとしたけど、どうやら事情が違うみたいだった。

 蹄の音が乱れ、馬車が止まり、金属音が響きわったのだ。


(仲間割れ?)

 どこの世界でも色々あるなーっと、静観していたら……


(――チョット!!)


 急に馬車のほろの一部が燃え上がり炭化する。

 同時に一瞬、熱風が舞う。

 幸いにも幌の上部だけ焼けたようで、それ以上も燃え広上がらず我が身に及ぶことは無かった。

 けれど、逃げれない我が身に再び同じものがくれば……即、お陀仏である。

 喧嘩なら他所よそでしてっと、イライラを募らせていると次第と音が落ち着き、燃えなかった箇所の幌がめくられた。

 夜明けが近いのだろう、うっすらと人影がこちらを見ているのがわかる。

 体格からして男だろうか。

 しかし、残念ながら、それ以上はわからない。


ギシッギシッ――


 人影は、ボロイ馬車の荷台をきしませながら私に近づくと猿轡さるぐつわを外す。


「ちょっと、アンタ、気をつけて喧嘩してよ。

 こっちは逃げれないのよ。

 魔法とか、当たったら危ないじゃない、ソレ位わからないの?

 人がどんな思いしたと……ってちょっと、モガモガ……」


 待ってました!! と、ばかりに怒鳴り散らしたが、あっという間に男は再び猿轡をはめた。

 そして、簀巻きの少女を担いで元来た方へと足を進めた。


モゴモゴ――


 とりあえず、文句を言ってみるも、どうにもこうにも反応が無い。

 諦め、次の逃げる機会を狙うことにしよう。

 それにしても、荷物のように肩に担がれたので鳩尾みぞおちに当たる甲冑が痛い。

 もちろん、ソレも言い出すことが出来ず、ただただ私は運ばれていった。


 彼の馬に乗せられ(もちろん荷物のように簀巻きのまま詰まれ!!)2人乗りとなってちょっと迷惑そうな顔をした(気がする)馬に揺られながら再び何処かへと移動させられた。


 昼と呼んでも良い頃合になった頃、森の出口辺りであろうか、少し木々が減り人の手入れを感じる場所へと着いた。

 降ろされ(やっぱり荷物のように)木を背に座らされる。

 背もたれのお陰で座位は保てている。


 改め男を見れば漆黒の髪に黒いマント、そこから見える中は旅用にと軽装化されているが黒い鎧が見える。

そして、瞳は紫。


(……村であった、ぶつかった男!?)


 そんな彼が再び猿轡を外そうと手を伸ばすもすぐ、手を止めて「とりあえず、大声は辞めろ。騒ぐな。」と、釘をさしてきた。


 さすがに、再度騒ぐことは無かったが(また、猿轡されたら困るし)冷めた声で


「っで?目的は?」


 と、冷めた瞳で睨みながらいってやった。

睨んだところで向こうは、興味なさげに無表情、こっちの顔もろくに見てないけど!!


「言っとくけど、どの種族の魔法も使えないわよ。残念、ご苦労様。無駄骨よ」

 淡々と話しながら話を続けようとするが、


「待って、何か勘違いしている」


 そう、めんどくさそうに男がさえぎった。


「怪しいものじゃない、サウネルージュの王国騎士団所属、レイヴィル=ノワールディアだ」


(王国騎士団?

 私が暮らす辺鄙な村から3日以上、早馬を走らせないと行けないような首都から?)


 いっそう疑いの眼向けるが、気づかないのか、あえてスルーしたのか、男から質問がとぶ。


「獣人の子のお前が何故、人の村に?」


 この世界、各種族間は基本的に仲が悪く交流が少ない。

 下手をすれば、他種族の国に居るだけで、謂れの無い罪を被せられ殺されることもある。


「何を企んでいる?」


「別に普通に暮らしてただけよ、野菜を育て売ってね。

 お爺ちゃんの家がソコにあったから」


 別にやましいことはない、と胸を張って(縛られたままだけど)言い返す。


「キメラか……」


 この世界、異種族間で混血で生まれた子をキメラを呼び一部で迫害をしていた。

 もちろん国の法律では、禁止をしているけど、根強い排他感情の心までは、管理できていない。

 そういったトラブルを防ぐためにも生まれた子は、特徴が出ている種族の国へと住まわせることが多い世である。


「獣人の町の近くまで送ってやりたいのだが……いや? 水色の瞳なのか!?」


 魚人の瞳の色、紛れも無い多種族間の特徴に今更ながら気づき驚いたようだ。

 よほど、今まで私に興味がなかったらしい。


「ついでに翼もあるわよ。この簀巻きの下に」


 驚きを隠せない男に追い討ちとばかりに付け足す。

 簀巻きの状態は、妙に背中から足にかけてまるび帯びているフォルムになっていた。

 不細工に長々と巻かれていたからではない。

 翼まで一緒に巻いていたから、人ではありえないフォルムになっていたのだ。

 慌ててといた縄の下あった翼を見て、まさに、鳩が豆鉄砲を食らった顔と、いう表情を浮かべる男。


「何故と聞かないでね?私自身知らないから。

 お爺ちゃんも血縁は無い、育ての親ってだけよ」


と、前もって釘をさしておく。


「後、子供って……私は16歳よ」


 この世界で15歳からは、成人である。

 もう、驚きで聞こえていないだろうが一応主張しておく。


「……わかった」


 と、とりあえず釈然とはしないもこの話を続けても無駄と思ったのであろう。

 完全を縄を解き、私を自由にする。


 長い間縛られていた体は、想像以上に強張っており背伸びをすればバキバキと音が鳴りそうな勢いだった。

 不細工に縄で巻かれたので傷めていないか不安だった白翼もふわりと広げて確認。


(うん、問題なし)


 黒い尻尾もフリフリ、いつも通り動く。

 腿まである乱れた髪を手櫛で整えながら改めて男を観察する。


 名は確か、レイ・・・レイヴィルだっけ?

 背は、180センチほどかな、今はかがんでいて、しっかり確認できない。

 肩にかかるほどの黒髪を後ろでさっぱりとくくっている。

 商人の旅衣装のような服装、複数人と戦っていたにもかかわらず乱れていない……。

 それを着崩す事無く着用しており、さらにスッと通った鼻に引き締まった口元、切れ長の紫の瞳。

 シンメトリーな配置で顔がいいのも手伝いいいとこのお坊ちゃんなのが分かる。

 まだ戸惑っており、私を無作法にもジロジロと観察。

 いや、それ以上に無作法……耳や翼等、珍獣を見つけた学者のようにベタベタ触ってきたり……


「温かい、耳、本物だ。翼も動きに不審な点は無い。年齢は……本当に16か?背は低いし、顔は幼い」


 ちらりと、こちらの顔を一瞬、見るレイヴェル。

 初めて視線が合う。


(わぁ……本当に美形だぁ……)


 置かれている状況を忘れて思わずトキメク。


「でも、胸は結構ある。瞳の色が違うが彼女に――っ」


 私の振り上げた右足の踵が見事に屈んでいたレイヴェルの頭にクリティカルヒット。

 最後まで言葉を続けることは出来ず左胸に触れた男は、そのまま前へと倒れこんだ。


「胸を触るなんてサイテー!!」


 私の声も、もちろん聞こえてない。

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