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前向きです。

 鳴り響き止まない雷鳴らいめい。割れた窓からは、外気が入り空気は湿気おび重い。


「いくら城を排除もやしてもきりが無いか」

 レイヴァンは、心の底から嫌そうな声で呟いた。


「どういうこと?」

 それを耳にしたユーナは、少しでも戦闘を有利にしたいと、その為に必要な知識を求め彼に問う。

 いななき、こちらを警戒している龍に互いに目を離さないように睨み付けながら会話せつめいは、続けられた。


 城中を業火で焼き尽くしたのには、理由があった。

 高温の炎で焼く事で城内に隠されている敵や魔蓄石マジック・ストーンを排除しようとしたのだが、城外にもマジック・ストーンを潜ませていた。

 その証拠に窓を破り彼らは目の前に現れた。

 おそらく大量の水がある場所に奴らのマジック・ストーンを隠しているのだろう、それ故にこれだけの水を操れ、自らの偽りの姿をも魔法で作り出せている。

 さらに天候が味方しなかった、止まない雨は、常に水を与え魚人の味方となる。


「つまり、かなり面倒な状態だってことだ」


「水が尽きるか、彼らのマジック・ストーンが壊せれたらこちらの勝利なのね」

 あまりに前向きな意見にレイヴァンは、一瞬驚きの表情を見せたがすぐに口角を上げ「そうだ」と告げた。


「それじゃ、行きましょ」

 力強い言葉を口にするとユーナは、レイヴァンの手を引き走り出した。

ただ、走る、走る、走り抜く。

 もちろん、水龍も容易には逃がさせてはくれない。

 うねり、うごめき、時折奇声にも似た鳴声を上げ追いかけ牙を剥く。

 水龍の影で見えないがおそらくアルジュアナもリシュルらも何処かでこちらを見ているだろう。

 彼らにとって、水が全て味方で、目となり、手となるのだから。


 全力で走るユーナ達を水龍は、容赦無く襲う。

 その牙は強靭。

 すぐ隣の石で出来た柱が砕け散る、それは避け切れなかったら起こるユーナ達の未来。


――リシュルの性格からしてしばらく弄ぶはず。

 確信は無いが、経験ならある。

 いつでも捕まえれるからこそ、わざわざこれだけ大きな龍で追い回しているはず。


「ユーナ、こっちに」

 繋がれた手が引かれる。

 大きな扉をくぐれば、あの大広間であった。

 雷光で浮かび上がるのは、焼き尽くされた装飾品の数々に、魔法で歪められた床。

 その床の中央付近では、小山程の大きな岩の塊が出来上がっていた。


――ザインが転がって・・・あっ。

 レイヴァンは容赦なく彼を踏みつけ中央へと走り込む。

 グエッっと蛙の様なうめき声がザインの口から漏れるが誰にも気にされない。


「ユーナすまないが、囮になるぞ。」

 岩の目の前でレイヴァンは足を止めた。


「わかった。」

頷くと共に振り返り来た方向をユーナは、睨み付ける。

彼女は、早鐘のようになった鼓動と火照る体を感じた。

そして、繋がれた手を通してレイヴァンの熱も。


「来る!!」

 レイヴァンのその言葉と同時に水龍が目の前に現れると、雄叫びを上げ歯牙をユーナ達にかける。

 否、その一瞬前にレイヴァンはユーナの手を引く。

 背後で大きな音をたて岩が砕け、大小様々な大きさの石へと姿を変えていった。

 ユーナ達に降りかかる石の数々。

 走り避けようとするが容赦なく降り、足場も悪くした。


「きゃっ」

 その中の一つの石にユーナは、足をとられバランスを崩す。

 すぐに立ち上がろうと上を見たユーナは、眼を見開いた。

 自分の上に降りかかる岩だった物、俵程の大きさの石が眼に入ったのだ。

 それでも逃げようと腰を上げるが間に合わない。


――キィィーーーンッ

 無機質な高音が響き渡る。

 ユーナの目の前の石が木っ端微塵に砕け散った。


「怖い思いをさせてすまなかった」

 レイヴァンの右手には、以前彼女を助けてくれる時にも持っていたあの黒い剣があった。


「まだ、走れるかい?」

 その質問にユーナは「もちろん」ニッと笑いながらこたえた。

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