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ロリコ……いや、今気にするのは、そこじゃない。

――バリィィズィァァァーー!!

 建物そのものを揺るがすほどの圧倒的な水量。

 乾いた城内はあっという間に水に満たされ嵐の後の河の様になる。

 濁流は容赦無く廊下にあるあらゆるものを押し流して行き二人の身は流れそうになる。

 けれど、互いに繋いだ手が離れることは無く、耐えしのぐ。

 そして、水は次第に量を減らし、数秒後には膝より下へとなった。

 辺りには、雨音、流れる水の音、したたる音……あらゆる水の音が残る。


「そろそろ出て来い」

 レイヴァンの良く通る声が誰も居ない虚空に向けられた。


「フフフ……さすが黒騎士様、感が宜しいこと」

 急に水面が人の背丈ほど盛り上がるとある形を作り出す。

 それは、あっという間に液体から人間、あの冷たい銀の瞳をし、威圧を感じるほどの笑みを浮かべこちらを見ている女性になる。


「やはり、あれは偽者だったか。アルジュアナ」

 レイヴァンは、ユーナに向ける視線とは真逆の厳しい目を彼女に向けた。


貴方如あなたごときがアルジュアナ様を傷付けは出来ませんよ」

 さらにアルジュアナの後ろに控える形で人影が水で作りだされる。


「あ!! リシュル!!」

 先程自分が戦っていた相手にユーナは声を上げた。


「お久しぶりです、ユーナ様」

 ユーナに向かい、にこやかに笑うのは、戦いの最後に見せた大人になった時の姿をしたリシュル。

 子供の時の面影を残す、藍色の癖毛や水色の瞳。

 体は、スラリと細身長身で貴族の正装と思われる蒼い服を違和感無く軽やかに着こなす、青年。

 もちろんユーナは挨拶は返さないも気にもせず話し続けられた。


「貴方が燃やしたアルジュアナ様も私の魔法で作り出した水で出来た偽りの体ですよ」

 レイヴァンに視線を戻しながら。


「アルジュアナ様の技術と私の魔術があれば、遠くに居る人間の意識を偽りの体に乗り移すのも容易いことなのです」

 つまり、自分たちの本体はココにも無く、いくら偽者の体を傷つけた所で本体は傷付かないので無駄という事をほのめかす。


「そういう事よ。諦めて、その小娘を渡しなさい。レイヴァン?」

 アルジュアナが問いかける。


「断る」

 即答、きっぱりと。

 ユーナは、レイヴァンの握る手により力が入ったのがわかった。


「レイヴァン、貴方程の魔法使いなら巨大な宝石マジック・ストーンの魔力に魅せられているからではなくて?」

 クスクスと笑いながらさらに問いかける。


「違う」


「そう、それじゃぁ、守れず、4歳で攫われた可哀想な前王妃の子、小さなお姫様に恋でもしていたのかしら?」


――まさか……私がお姫様? 赤い瞳の姫だった?

 そう、それはスケティナが話した昔話になぞらえたら当てはまっていくのではないか。

 だって、アルジュアナはレイヴァンのことを黒騎士と呼んでいる。

 レイヴァンが15歳の時、働いていたのは、この暁月ドゥーニング・ムーン城。

 彼が警護していたのは、幼少の頃の私。

 そして悪い魔法使いは、アルジュアナ達。

 7年前、「消えた=死んだ」と思われていた4歳のわたしは、攫われて生きていた。

 その後、魔蓄石マジック・ストーンを取り出そうとした段階で復讐に来たレイヴァンに邪魔をされた。

 そして、その騒ぎの中、わたしは実験施設から消え、記憶を失いお爺ちゃんに拾われた。

 猫耳や翼、瞳の色等姿が以前と一部違うのは、膨大すぎる魔力の副作用。

 そして、私の年齢に誤差があるのは、拾われた時にお爺ちゃんが間違えたから、拾われた時の年齢は5歳。

 今は、16歳ではなく14歳だった。

 15歳未満の未成年だったんだ……わたし。

 ってか、4歳の子に恋する15歳ってロリコ……いや、今気にするのは、そこじゃない。

 手にした情報を元に推理していたが、それは途中で遮られた。

 いいところだったのに。


「否定しないのは……図星かい?」

 再び問うたが返事が無い、それが可笑しくてたまらないと高らかな笑いがアルジュアナの口から漏れた。


「恋する男は一途だねぇ……それも何年も。さぞ、恋焦がれ苦しかったでしょう……今、その苦しみから救ってあげるわ」

 リシュルに向かい軽く頷き合図を送る。

 それに対して、リシュルが手にしていたロットを振りかざす。


水龍ウォータードラゴン降臨』

 城の中に満たされていた水がいっきに意思をもったかのように蠢き、ドラム缶程の直径の一本の紐状になる。

 その紐の先には、蛇、いや、角と髭を生やした龍の顔が浮かび上がる。

 口を開きいななくと鋭い牙がずらりと並び今にも噛み砕こうと威嚇もしていた。



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