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頭突きはいかがでしょう?

 外は、相も変わらず雨が降り続けていた。

 それは一段と激しくなり窓に降り付けガラスを震わせていた。

 暗がりの廊下の中、激しく鼓動を高鳴らせ走るユーナ。

 その表情は焦燥を浮かべていた。


――どう戦えばいいかな。

 逃げるではなく、どう立ち向かうか。

 必死に対策を考える。

 とにかく、走る、走る、走る。

 対抗策を思いつくまで追いつかれないようにと、彼女は必死に走った。

 けれど、後ろから追いかけて来る気配は容赦なくどんどんと近づいてきた。

 魔法を使ってくる気配は……


――無い。

 何か……後ろから襲われたらどうすればいいんだっけ。

 暗がりでの対策・・・護身術、たしかぜんせ、ガッコウで習ったような。

 あの安全教室の内容を必死に思い出す。

 ハゲ頭に猫耳のザインとの体格差は、頭ひとつ分ほどだったはず。


――ならばっ。

 と、心に決める。

 走るスピードを少し緩め撃退に備える。

 直後、後ろから抱きつかれた。

 翼越しに人から出る熱気を感じる。

 ユーナは後ろに片足を勢い良く出す。


――えいっ足の甲を踏みつけ、れない。

 上手い具合に避けられた。

 この城で捕まって一番最初の部屋で木片を投げつけた時には当てれたので大した運動神経では無いと思っていたが、そうではなかったらしい。


――ちょっ……さらに強く抱きしめられた、それなら!!

 体を反らし、勢い良く頭を後ろに突き出す。


「頭突きならどうだ!!」

 ザインとの背の高さなら顎にぐらいに攻撃が出来ると考えたのだ。

 けれど、こちらも思い通りには行かなかった。

 ブンと勢い良く振った頭は人の上半身にボフンと当たるだけであった。

 外で、大雨に混じり雷が落ちた。


「踵落としの次は、頭突きとはなかなか熱烈なアプローチだね」

 稲光で見えたのは、優しい微笑を浮かべたレイヴァンだった。

 さらに強く抱きしめてくる。


「な、なんでアンタが!!」

 そこから抜け出そうと必死に体をよじったり、足をバタつかせるも抱きしめてくる力は強くなる一方であった。


「心配して見に来てくれたんじゃないの?ユーナ」

 耳に顔を近づけながら囁く。

 その通りなので、肯定すべきなのだが……。


「そっそんなんじゃないっ」

 たまたまよ、と付け加え否定をする。

 図星だと余計に否定したくなる。


「ふ~ん、そうなんだ。髪の毛短くなって……大変な思いさせてごめん……」

 猫のようなユーナの耳元で囁く。

 フサフサ毛の生えた耳がくすぐったそうにピクピクと動く。

 レイヴァンは右腕はそのまま、左腕はユーナの体から外す。

 そして、彼女の震える耳元に持ってくる。


――コチョコチョ。


「なっちょっくすぐったい、何っえっぁっ」


「やっぱり、ここ弱いんだ」

 いい事知ったっと言わんばかりの笑みを浮かべるレイヴァン。


「猫と一緒だね」

 必死に身を駆け上るくすぐったい快感を堪えるユーナに囁く。


「楽しいけど、残念。邪魔者が来たようだ」

 心底残念そうに溜め息をつくとレイヴァンは、ユーナの腰にまわした右腕も緩め彼女を放す。

 否、完全には離さなかった。

 レイヴァンの左手は、ユーナの右手を握っていた。


「もう、放さないから」

 そう、告げると窓から離れるように指示を出した。


「ぇ? なに?」

 ユーナは握られた手にどぎまぎし、言われるがまましか出来なかった。

 けれど、次の瞬間、我に変える出来事が起きた。

 廊下の窓ガラスが一斉に割れる音が響き渡ったからだ。

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