誤算でした。
――害虫の根本的駆除はできなかったか。
大広間の中心で舌打ちをしながらレイヴァンは、目の前の状況を把握した。
敵のレベルによって数通りの計画を立てていた。
その中でも一番最悪のパターンでもって対応したが、それでも上手くいかなかった。
数時間の業火状況で生き残れるとは、思っていなかった。
誤算である、無表情ながらも目に焦燥感が漂う。
さすが王妃直々の計画といった所か……妙な所でレイヴァンは感心してしまう。
「オッオマエ、何て事をしてくれたんだ!!」
大広間の隅で唯一燃え残った有機生物もとい、ザインは上擦った声を上げた。
身につけている衣類は、煤け一部焦げつき、全身は汗だく姿である。
ちらりと、レイヴァンはそちらを向くもいかにも面倒だといった顔をするだけで返事もない。
「アルジュアナ様がぁ……オマエのせいだ、折角ココまで研究が進んだのに、オマエがぁぁ!!!」
冷めたレイヴァンとは対照的に 嘆き・苦悩の感情を前面に出した興奮した顔のザイン。
何気に獣人ザインの尻尾は、ブワッと逆立ち怒りをあらわにして猫っぽく可愛いのだがこの場の誰もそこに突っ込まない。
「生きては帰さん!!」
いかにも悪役の台詞を吐きながら詠唱を始めた。
『土嵐』
魔蓄石が嵌められたナイフを床に差し魔力を込める。
石で出来た床がボコボコと歪に変形すると大小様々な大きさの石となり数十、いや数百個浮かび上がる。
そして、レイヴァンの方に全てが一直線に向かっていった。
相変わらず面倒そうな顔付きで左に避けるも石は、磁石に吸い寄せられる鉄かの様に追ってくる。
目の前に来る石は、剣で叩き落し、さらに叩き落しきれない物は右へ左へと素早く避けながらザインとの距離を縮める。
『砂漠化』
レイヴァンが急に速度を落とす。
足元が急に砂状へと変わり、足を取られだしたのだ。
それでも、襲い掛かる石をかわし叩き落し近づこうと動きを止めない。
数時間かけ、ジワジワと相手を甚振る。
思いのほか、レイヴァンの戦い方に畏怖を感じない……そう、ザインは感じた。
そして、今なお物理的にしか戦わない彼を見て確信する。
「オマエ、魔法が使えないな」
喉の置くから笑い声を響かせながらザインは告げた。
「先ほどの炎を使った魔法で魔力を使い尽くしたか」
ざまあみろと、いわんばかりの顔になると追い討ちをかけるように魔力を込める。
襲い掛かる石はさらに増える。
舞う石で風が起こり轟音となり、さらに大量の砂が巻き上がる。
1m前ですら見ることが出来ない。
砂で視覚、風の音で聴覚を封じられる。
だが、ザインは問題ない、操る石からの感覚で把握を出来るからだ。
操る石が物に当たる感覚が増えていく。
――見えないがわかる、やつはもう動けていない。
レイヴァンが、屈んで、ただただ襲いくる石を身に受けているのが伝わってくる。
――ドドメを刺そう、奴を甘く見てはいけない。
舞い上がる石も砂も全てを一箇所へ集める。
レイヴァンのいる場所、そこへ。
操っていた石を集め終わるとさらにトドメを、と詠唱をあげる。
『拘束蛇発動』
ザインの足元の床が一匹の大蛇のように蠢きを起こす。
それが、石によって築き上げられた小山にたどり着くと、石の山は圧縮され一つの岩となった。
「クックック……アッァッァアッハッハッハ。魔法が使えぬお前など相手ではないわっ。フフッフ・・・アハッハッハァァッハー」
ザインはナイフを片手に勝利の快感に身を震わしていた。
そして独り余韻に浸り、喜びの笑い声を上げ続けた。
その声は城中に響きわたる。
――カタッ
小さな音。
それは、扉が少し開く音であった。
「あ?」
目ざとく聞き逃さなかったザインが振り返るとそこには……ユーナが居た。
彼女はレイヴァンの様子を見に来ていたのだ。
「えっと……お呼びじゃない、ね?」
失礼しましたと、扉を閉め無かった事にした。
静寂が訪れる。
「そう、お呼びじゃないって……マテマテっ待て!!」
呆気に取られるが、そうはいかないとザインは叫び呼び止める。
追いかけようと足を出そうとしたがそれは、出来なかった。
理由は簡単、気を失ったからだ。
魔法によりあちらこちらボロボロとなった床にザインは、倒れこむ。
そして、その後ろから現れたのはレイヴァンであった。
――魔法解除の詠唱をさせてから息の根を止めようとしたのだが。
誤算だったと、付け加える。
荒れ狂う石と砂の嵐の中、レイヴァンは手にしていた剣を身代わりとして置いたのだ。
単純な手だが、相手が興奮していたのであっさりとかかった。
後は、後方で身を潜め、隙を見てザインを捕縛し脅し囮とした剣を取り戻そうとした。
レイヴァンは、誤算で計画を邪魔されたが、先程の誤算の時とはうって変わって目に優しさが漂っていた。




