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むしろ、貴女の事嫌いですから。

 天然洞窟は天井が高くランプの光も届か無い程であった。

 通路の道幅も場所によって変わるが4~5m程あり、土と岩で出来ていた。

 その洞窟通路に窪みが有り、それは3畳程の広さの場所であった。

 そこに通路より隠れる形でユーナとカクティヌスは座っていた。

 静寂な空間、外部と繋がっているからか空気は澄んでいて冷たく感じる程であった。


「とりあえず、時間がくるまでここで待機となります」

 全て状況に応じて指示が出ています、と付け加え胸ポケットより懐中時計をとりだし時刻を確認したカクティヌスは、未だに息が整わないユーナに告げた。

 カクティヌスの方は、薄っすら汗をかいているものの息は、とっくに落ち着いていた。


――お姉さん同様、この人達の体力とか技術力とかどうなってるんだろう。

 ユーナは不思議で仕方なかった。


「待っている間、怪我の手当てをしましょう」

 ランプの光量を調節し通路側へと光があまり行かないようにしながら話を続けた。

 そして、薄暗い中窪みに隠してあった袋より小瓶と様々な大きさのガーゼ、包帯を出す。

 ユーナは、ゼイゼイと息をしながら頷き返事とする。


「怪我の場所は何処でしょうか?」

 ハッカの様な清涼感の有る香りのする液体をガーゼに染み込ませながら問う。

 未だ魔法をかけられ声の出ないユーナは、無言のまま左胸を指差した。

 彼女は、連れ去られる時に出来た打ち身やアルジュアナより受けたもの等でいたる所に傷が出来ていた。

 あまりに沢山すぎて、どれから処置してもらおうかと悩んだが、最終的に一番ズキズキ痛む左胸の傷を最初に選んだ。

 アイスピックのような鋭い物で刺された深さ1cmに満たない程の傷が5つ、出血はほとんど止まっていた。

 今にして思えば、人の爪でココまでの傷が出来るだろうかと、疑問が浮かんだ。

 付け爪なのだろうか、研ぎ澄まされたそれは、あっさりと胸に刺さった。

 不思議で仕方ない。

 とりあえず、処置してもらおうと座りなおし姿勢をただす。

 この頃には、ユーナの息切れはだいぶ落ち着いていた。

 しかし、いざ、傷口の胸を出す段階で渋りだす。

 ドレスの襟元に手をかけたまま動かぬユーナを見て「不潔のままでは化膿してしまいます」と、カクティヌスは、促した。


――この人のおスケティナさん、女性でもOKって言ってたし……もしかして、彼女いもうとも同じ性癖だったら。

 こんな状況で不謹慎だが、そんな考えが浮かんだ。

 ジーっとカクティヌスを無言で見つめ、10秒程気まずい間が流れる。

 先に口を開いたのは、無言の訴えを察した見られていたカクティヌスであった。

 深い溜め息と呆れた顔と共に「姉とは、違って異性しか興味ありませんから」と。

 そして、さらに付け加えた。


「むしろ、貴女の事嫌いですから」

 まるで、世間話をするかのごとく真面目な顔で告げた。

 ガーゼを広げ、同じ口で「処置いたします」と、促した。


――初対面でいきなり嫌いって!!

 声に出せたら「こっちこそ嫌いですから!!」言い返す、いや、それ以上倍返しで罵るのだが、あいにく出せない。

 ユーナは、憤る気持ちを手元に握りっぱなしのヌイグルミを絞めることで落ち着かせた。

 何せ、一応・・命の恩人なのだから、と。

 赤黒く汚れたドレスの襟元をずらし上半身裸になり傷口を晒す。

 冷たい空気に触れる。

 それ以上に冷たいガーゼで汚れた箇所を軽くふき取られ、最後に傷口に大きなガーゼを当てられる。

 薄暗い中でも手馴れた様子でガーゼを包帯で固定させ、「他にも無いですか?」と相変わらず変わらない顔付きで話す。

 腹は立つが遠慮していてもしかたない、とユーナは痛む順に傷の処置をしてもらう。

 何故、助けに来たレイヴァンが未だにここに来ないか等色々聞きたいことがユーナには沢山あるが声が出せないのでただ静かに作業は続いた。

 そして「粗末な服ですが動きやすいですのでこれを」と、街娘が着るような膝丈の綿のベージュ色のワンピースを取り出す。

 身に着けていた服は、上質な素材で作られていた淡い緑と黄色の色使い美しいドレスであったが、今はもう破れ、血と泥と汚れ、一部焦げている所も有り見る影も無かった。

 それをその場で脱ぐと渡された小奇麗なワンピースに袖を通す。

 「粗末」と言っていたが、ユーナが村で着ていた服よりも明らかに着心地が良い、高い物であるのがすぐに分かった。

 そして着てみて分かった事、この服も明らかに自分の為に用意していた物であった。

 ピッタリサイズな上に、背中の翼の為の切れ込みがしっかりと入っていた。


――相変わらず、用意周到だわ。

 ここまで計画的に色々準備されていると驚くのも馬鹿らしいと思いながらボタンを留めた。

 一通りそれらが終わった頃、カクティヌスは再度、懐中時計を確認する。


「もう少し、時間がありますので栄養補給といたしましょう」

 血で汚れたガーゼ等を片付けながら、淡々と告げた。

 別の袋から硬く焼き上げた非常食用のパンと干し肉、水を取り出す。


「温める事が出来たら良いのですが、私達は魔法の力が弱いので出来ません」

 と、申し訳なさそうな顔……はせず、相変わらず真面目な顔で告げパンと干し肉、水を手渡す。

 「私なんて全く使えませんけど。」と、声に出せないので心内に思いつつユーナは受け取った。

 もちろんそんな気持ちも伝わらず、カクティヌスは無言のまま食事をはじめ、ユーナもそれに続いた。

 黙々硬い食べ物を咀嚼する二人。

 仲良くしたいとは思わないが、全く彼らが何を考えているのか分からないのは今後、逃げ出すのに支障が出ると思い、ユーナは駄目元でコミュニケーションを図る事にした。


――とりあえず……この首輪なんとかならないかな?

 声を封じている魔法のかかった首輪を外して欲しいと、首元を指差し伝えてみる。

 すると、あっさり「無理」と断言される。

 理由も無く却下されたのでユーナが憤慨する。

 その顔をみて、また呆れた様にため息をし理由を話した。


「強力な魔力で固定されてます。レイヴァン様程の魔法が使えれば可能ですが私の力では無理なのです」

 そんなこともわからないのか? と、言いたげな目をユーナに向けた。

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