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彼女は、姉です。

 レイヴァンの詠唱と共に炎が各所で巻き起こった。

 それは、この空間おおひろまだけでは無い、この城の全てで。

 急に複数の炎が舞い上がったかと思うと消え、別の場所で再び舞い上がる。

 あらゆる場所が神出鬼没な紅蓮の炎にもてあそばれている。


 そしてそれは、大広間の床下に隠れレイヴァンに不意打ちをしようと今まさにナイフを握っていたザインも例外ではない。

 狭い床下では炎も避けれず焼かれてしまうと恐れたザインは、攻撃系の詠唱を諦め、石床の変形魔法に切り替え命からがら床から這い出す。

 広間に出てザインは、愕然とした。

 レイヴァンの魔法でありとあらゆる場所で炎が巻き起き煙が舞いあがり煤が天井を焦がす灼熱地獄であった。

 視界もかなり悪い、そんな中見えたのは、長い階段の上にいたアルジュアナ、そしてユーナまでもが紅蓮の炎に巻き込まれていた。


「あの小娘を助けに来たのではなかったのか」

 不意打ちの事など忘れ驚愕するしかなかった。

 土の力を持って火を収めようと詠唱作業にはいるも、気まぐれな業火は容赦なく邪魔をし進まない。

 「せめて、アルジュアナ様だけでも」と、彼女を助けようと階段の方に近づくもより強い炎が彼を包み込み進む方向の前方ですら見えなくなった。

 今彼にできるのは、孤独に己に身を守るために逃げ慄くだけだった。


 時を同じくしてユーナも驚愕していた。

 巻き起こる地獄絵図のような炎、枷と鎖に繋がれた彼女は逃れることも出来ず、周りで起こる炎へと身を焦がすしかできなかったからだ。

 隣にいたアルジュアナは、ジュッっと水蒸気が舞い上がり煙と炎が上がると同時に姿が見えなくなった。

「(骨の髄まで焼け消えたの?火葬の炎より強いって何度なのよっ)」

 声は出せないがもう、突っ込むしか出来なかった。

 それでもどうにかならないかと、鎖を引っ張り試行錯誤していた時――


「ユーナ様でいらっしゃいますね?」

 聞き覚えのある柔らかく丁寧な口調が彼女の耳にはいった。驚きそちらを振り向くとこげ茶のジャケットを着た濃緑の髪に切れ長の青い瞳の人が立っていた。


「(スケティナさん!!)」

 口がパクパクとなるだけだが、宿屋で別れ離れになった女の名を思わず叫んだ。


「お静かに、今からお助けいたします」

 敵の目を気にしてだろうか、小声で説明すると手早く作業に入る。

 初めて会った時の艶やかな色っぽさより凛とした爽やかな印象で、違和感を覚えるもユーナの疑問など気にせず、手際よく鎖を旋棍トンファー叩き切る。

 ユーナは、長時間鎖で両手を挙げる形で立ち拘束されていた為、鎖が切れると同時にふらつき軽く膝をつく形となった。

 床には汚れたヌイグルミが転がっていた。

 拾ったときも埃や煤で汚れていたが今はそれ以上にみすぼらしくなっていた。


――まるで私みたい。

 ギュッと思わずヌイグルミの手を握る。


「こちらについて来て下さい」

 急に手を引かれ、立ち上がると同時に出口へと案内をされる。

 それは舞い上がる炎に飛び込まなければ進めず、ユーナは二の足を踏んで立ち止まる。

 それでも容赦なく力強く引っ張られ橙と赤の舞うの空間へと入る。

 目の前が赤いスポットライトを当てられたかのように強烈な赤色光、一色になる。

 だが、不思議と熱を感じなかった。

 それを走り抜けたかと思うと再び炎の中へ手を引かれる。


「レイヴァン様の魔法です、私達が通る道のみ幻の炎を。それ以外は、本物を出しておられます」

 数十センチでも道をそれますと灼熱の炎に身を焼かれますと、手を引く者は走りながら付け足した。


 幾度となく炎を掻い潜り、30分程走ったころだろうか、息が切れ、足元の小石につまずいてしまう。

 しかし、ユーナはふらつきながらも傷ついた身体を奮い立たせしっかりと自力で立ち上がり再び走り出した。

 逃げ走る道は、美しく絢爛だった廊下からやがて狭く暗い石壁の通路となった。

 窓もなく、地下の人工的な洞窟を思わせた。

 二人の息遣いと靴音だけが響き渡る。

 次第に足元は土となり天然の洞窟へと切り替わった。

 岩肌から染み出た水が足元や時に体を濡らす。

 その頃になり引かれる手が止まり、ユーナも足を止めそのまま座り込みゼイゼイと咳込んだ。


 洞窟の中は真っ暗であったが、急に光が起こる。

 ユーナは、一瞬目が眩み身構える。落ち着いて見れば、ランプが煌々と光っていた。

 手を引いた者が用意していたランプである事を知り納得し再び息を整える動作へと戻る。

 前もって用意していたと思われる荷物が足元に置いてあった。


「レイヴァン様の指示にてお連れ致しました」

 1つのランプを挟み向かい合わせになるように座りながら話した。

 まだ、のどに口封じの細工をされているユーナは声を出す事はできず、無言で頷くしかなかった。


「後、貴女は一つ勘違いなさっているので訂正させていただきます。わたしは、レイヴァン様の家臣の『カクティヌス・メンルナー』と申します。スケティナは、双子の姉です」

 姉とそっくりな顔で言った。

 確かよく見れば、同じ濃緑の長髪、切れ長の青い瞳、顔の造りは同一人物を思わせたが、姉のスケティナの左目の下とは違い右目の下のホクロがあり、雰囲気も凛とした真面目さが前面に出ていた。

 長い髪を三つ編みでまとめ、上質そうなジャケットとタイトなスカートをきちんと着た姿は出来る秘書といった印象を受けた。

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