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踵落としにご注意ください。(1)

ガラガラ――

 粗悪な木製の車輪は容赦なく地面の衝撃を荷台へと伝えた。

 積荷は、老朽化し所々に穴が開いているほろから入るほんのわずかな光の中でさえ輝く美しい蒼銀の絹糸。

 いや、よく観れば絹糸ではない。

 絹糸のようにしなやかに波打つ髪。

 身長程に伸ばされた長い、長い髪であった。


 髪の持ち主は、口には猿轡さるぐつわ、体には簀巻きとされた少女。

 彼女の瞳は焦ることはなく……ただ、揺れに身を任せていた。

 あきらかに誘拐された、そう物語る状態で冷たいと思わせる程の透き通った水色の瞳で状況を把握しようと周囲を見渡す。


(……暗い)

 何とか見えるのは、所々破れているほろ

 テントのように張られたそれが周囲を確認しようとする少女の視界を奪い落胆させる結果しか得られなかった。

 せいぜい分かったのが、暗いので夜であることである。

 小さな口から溜息をしようとするが、猿轡でうまく息が抜けていかない。

 溜息さえうまく出来ない状況に一瞬、眉をひそめる。

 さらに年代物の荷馬車特有の馬臭さが少女を不快にした。

 鼻にツンと残る臭い感じながら、少女はこう至った経緯を思い出す。


(確か、村で野菜を納品して……)





「いらっしゃい。

 待ってたよ、あんたの作る野菜は同じ土地で作っても何故だか、他の人より美味しいと好評だからね」


 そう、話す赤鼻のオジちゃん村役人。

 役人といっても別に試験に合格したとか代々村役人の家系とかではない。

 面倒な仕事である役人の仕事を人が良いので押し付けられたらしい。

 町へ野菜を売る際、事務作業をするのが彼の仕事である。

 もちろん、これだけで食べていける程、世の中甘くなく、兼業で奥さんと農作物を作っている。


 本当にお人よしで、常連である私の常にマントにフードの顔も体つきも見えない、怪しい格好も気にもしない。

 そもそも、この村の人達は、ありがたい事にお人よしな人が多い。

 田舎特有のノンビリ系が多く、私の怪しい格好も「ちょっと傷痕があって……」と、誤魔化せば、傷に効く薬と共に「お大事に」と納得してくれる。

 ちょっと良心が痛むが、しかたがない。


 慣れた手つきで互いに手続きし書類にサインして終了。

 売り上げは後日、支払い制である。

 人懐っこい笑顔の彼に見送られながら帰路へと足を出した。


 (もうすぐ切れてしまう炭を買って帰ろうかな)


 そう、思いながら角を曲がった時、ドスン、と見知らぬ人とぶつかってしまった。

 150センチ程の私の体は、あっという間に後ろへと倒れその勢いでフードが取れる。

 いつもは視界を半分程遮る目深に被ったフードが取れ、はっきりと見えた相手。

 黒髪に黒いマント、漆黒といっても良い程、黒尽くめ。

 だけど、瞳だけが宵の始まりの空の様な紫。

 磨き上げられた宝石の様に煌きオーラをバシバシ感じさせる精悍な顔つきの男。

 

 のんきな田舎の村に似つかわしく無い、綺麗過ぎる姿。

 「いや、チキュウでも異世界でも初めてですよ、このレベル!!」の容姿に一瞬見入ってしまう……が、ぶつかった時にわかった彼のマントの下にあるもの。

 こんな辺鄙でのんびりした田舎の村では、まず身に着ける人なんていない固い物……おそらく鎧。

 関われば面倒と、「すみません」と小声で謝りながらフードを被りなおし、その場をすぐに離れ足早に帰宅を急ぐ。

 私の容姿を見られたらかなり厄介い。


(やば……相手は、他所を向いていたし、気付かれなかったよね……)


 のんびり平々凡々暮らしたいと思う私にとってこの見かけは、邪魔。


 (人生平凡が素敵じゃない?万々歳☆)


 16歳の私が、既にやる気の無い新入社員みたいな心情で生きるには、精神的にも肉体的にも厄介な身の上なのよ。




 この世界には、4つの種族が存在しているらしい。


 まず、人間。

 人口の60%程占めており大陸の南側の平地を中心に生活をしている。

 髪や瞳の色は様々だが、体格は西洋人に近く総じて長身な人が多い。

 火の精霊の加護を受け、それを元に暖をとったり農具や武器を作り町や村を形成し暮らしている。

 人口比率で言えば、最も繁栄している種族である。


 次に多いのが、獣人。

 20%程の人口で主に大陸中央にある砂漠地帯で生活をしている。

 人間に比べ筋肉質な者が多くいが、顕著に違うのは獣酷似した耳と尻尾が生えている事である。

 地の精霊の加護の元、部族ごとに集落を作り鉱石や原石を採掘し生活をしている。


 15%程の人口なのが翼人と呼ばれる背中に翼を生やした種族。

 一定時間であれば空をも舞う。

 北部の切立つ崖や険しい山の中での生活を中心にするも風の加護も手伝いそれを可能にしている。

 排他的で自給自足の生活を中心として暮らしている。


 残りの5%、最も少ないも富を繁栄しているのは魚人と呼ばれる水辺で暮らす種族。

 一見人と同じ姿かたちだが、瞳が必ず水色であり、その瞳の色は何故か他の種族では現れない現象である。

 水の精霊の加護の元、大陸西部にある巨大な湖を中心に水を利用し、肥沃な土地を活かし農作物を育てている。


 加護を受ける精霊は生まれながら決まっておりそれぞれの種族の身体的特徴=加護精霊となっている。

 例え異種族婚の子であろうと同時に異種族の特徴が表れることが無いらしい。

 私も人間の村でしか生活した記憶しかないので、この情報は人から聞いた事があるだけ。

 実際にどうなのかは、詳しくは分からない。


 だけど、何故か私には無節操にそれらがミックスされていた。

 獣人と同じ頭には猫のような耳にお尻には尻尾。

 華奢な背中には翼人同等の翼が。

 瞳は薄く透けるような水色。

 ありえない、この容姿であれば、自然と期待されるのが精霊の加護。

 さぞ、全ての精霊に愛され全てが使えると思いきやまったく持って使えないのである。

 この世界では10歳にもなれば、大なり小なり精霊の加護の元、属性の魔法が使えるはずだが使えないのである。


 そんなこともあって、うかつに人に姿を見られたくないのである。

 さらに体が16歳でも精神年齢がもっと年上……しかも、チキュウ出身とややこしい身の上。

 こっちも説明しても良いけど長くなりそうだから別の機会に。

 とりあえず、厄介。


 今は亡き育ての親(っていってもお爺ちゃん並みに歳が離れてたけど)から譲り受けた、人間の村の外れにある、この小さな家でのんびり元気に暮らせればいいと思っている。




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