空白の6年間に何があった?
――何で来たのよ。
開かれた扉から現れたのは、私、いや私の中にある魔蓄石の魔力に惹かれたと言われたレイヴァン。
いっそ、彼が来る前にこの女に石を取り出させ、彼がここに来ない様にしようとしたが上手くはいかなかった。
何でだろ、あんな身勝手な男なのに、石に惹かれているだけと知ったのに彼を巻き込みたくない、それが自分の死と引き換えだとしても……と、思ってしまった。
”死”
前世で経験した永遠の別れ。
もう逢えない家族や周囲をどれだけ悲しませたか、謝ることも出来ない究極の業。
だから、新たな人生が異世界だろうと、どんなに不遇な容姿で生まれ蔑すまれようと、攫われようと、生きて生きて生き抜いて笑顔で過ごしてやると、伝えれなくても元気だよって彼らに胸を張って言えるように決めていたのに。
気持ちをまとめる事ができず、不意に涙がユーナの澄んだ水色の瞳から零れ落ちる。
左胸傷つけられた時よりも強い痛みがキュッと胸を震わす。
落ちた涙は音も無く血と同じように足元のヌイグルミに染みこんだ。
罠の為に毟り切られた髪と羽が辺り一面に散らばっている。
ユーナは、今すぐにでも声を張り上げ「ここに来るな、帰れ」と言いたいも喉に嵌められたが土色の首輪がそれを邪魔をする。
首輪には小さな魔蓄石が仄かに光り輝いている。
声を出せない魔法をかけられているらしい。
静かに入ってきたレイヴァンは、階段上のユーナの方を確認するとあまりに痛々しい姿に一瞬目を細め、哀しさを浮かべた瞳をするがすぐに柔らかな笑みを浮かべ「すぐに助ける」と、目で語った。
そんな静寂を破ったのはアルジュアナであった。
「待っていたわ、レイヴァン」
ユーナの横で妖美な笑みを浮かべる。
「……王妃である貴女が何故?」
レイヴァンは、黒幕に伯爵、いやそれ以上のクラスの者が関わっていると推考していたが、まさか王家が関わっているとは、露と思わず顔には出ないが内心驚愕する。
ユーナ自身も高級なドレスを身につけ気品も誇りも高い女性なのでお偉いさん系とは思っていたが、そこまで上の人とは思っていなかったので声無く驚く。
「何故? 私が首謀者だからって言ったら満足かしら? 初めから全てこの計画に携わってきたのよ。そう、この城が美しき暁月城と呼ばれ、彼女が赤い瞳をしている頃から」
それを聞くと、レイヴァンがギリッと奥歯を噛み締めたのが遠目であってもユーナには分かった。
赤い瞳? 私は、6歳位でおじいちゃんに拾われたときから魚人のように水色である。
「もしかして、彼女に何も話していないの? あらやだ、余計な事言っちゃったかしら?」
全く悪いとは思っていない顔のアルジュアナはクスクス笑いながら続けた。
前世と今との間、おそらく6年間程の記憶が無い。
その間に何かあったのだろうか?
レイヴァンと出会っていた? いや、でも何も彼から聞いていない。
声の出せないユーナは、問うことも出来ず成り行きを見るしかなかった。
「私は彼女と付き合いは、とても長いの。貴方よりずーっとね。彼女が生を受けた時、いえ、生まれる前の魂から彼女に関わってきたのよ。異世界から呼び寄せた魔力を集めることの出来る魂をある女のに宿った胎児に入れてみたの。上手くいったわ、そこで作り上げた最高品の魔力を秘めた魔蓄石。それを今から返していただくの。最高の力を宿した宝石を胸から抉り出すのよ」
可笑しそうに目を細め語り続ける王妃。
「本当は7年前取り出そうとしたのに……レイヴァン、お前が邪魔をしたのよ。お陰で苦労したわ、探し出すのに。副作用のせいかしら耳や翼が生えて姿まで愉快に変わっているし」
最初に捕まっていた部屋で聞いたザインの話と同じ話。
あの時、あの話を最後まで聞けばもっと空白の6年間について知ることが出来だろうか。
ユーナは、癇癪を起こさなきゃ良かったとちょっとだけ後悔をするが、それもつかの間であった。
『不知火』
突然、炎が巻き起こったからだ。




