フラッシュバックする。
厚い雲に覆われた雨の夜の森。
全てが闇へと同化しそうな黒の世界に唯一光るモノが舞う。
雨にぬれても消えぬ光。
地より這い出てくる無数の人造人間を漆黒の剣より放たれる紅蓮の炎で焼き払いながらレイヴァンは前へ前へと進んだ。
炎に触れた途端、人造人間達は乾き、ひび割れ、砂へと還っていった。
強すぎる彼の魔法の炎は一瞬にして土の体も心臓部である魔蓄石も焼き尽くしていった。
――何故、またこの城なのだ。
体の動きは止めず、進む。
激しい動きだが顔色一つ変わっていない。
冷たい雨を受ける顔は、無表情。
けれど、内心は古傷が疼いていた。
不審な動きをした偽医師を追わせた部下が帰ってきた。偽医師が消えた場所は、過去に自分が勤めていた古城。
都会の喧騒から隔離されるようにひっそりと育てられた青い髪に赤瞳の姫が暮らしていた場所。
そして、自分以外が皆殺しにされた因縁の空間。
今は国が管理とし、近づく事さえ許されない所となっているはずなのだが。
今更そこで何が起きようとしているのか、ざわつく胸を押さえ圧倒的な強さで一人挑む。
人造人間の姿が全て砂へと還った頃、森が開け聳え立つ城が見えた。
誰にも手入れされていない忘れ去られた場所、いや、無かった事にしようとされている場所。
あの頃と違い美しい緑の蔦で覆われた外壁は、雑草が所々生え蔦は枯れ切っていた。
朽ちかけそうな門は、かつての花草模様もの細工も見る影もなく錆びついていた。
近づく錆び付いた門は、金属の動く鈍く重たい音と共に自動で開く。
――獣人の魔法か……
扉の端には、案の定、土系の魔法による細工がしてあった。
無数の人造人間に、案内する為の道標用の魔術、それらの為に希少な魔蓄石を湯水のように使う相手。
ユーナを攫った相手はかなり厄介であることがうかがえた。
城の中は、外と同じように真っ暗で灯り一つ無い。
剣を軽く握りなおし、詠唱を心内に軽く呟く。
『聖灯』
魔蓄石を中心に炎が現れそれは、剣先から握る柄まで覆い尽くす。熱を伴わない淡く白色の炎は、半径5m程の周囲を照らす。
明るくなった事で足元にある真新しい赤い染みと糸の様に落ちている数本の青銀の髪に気づく。
初めて無表情だった彼の表情が動く、軽く眉間に皺が入る。
かつて自分がここで見た風景……血で染まった愛しの少女の髪と相似していて当時の様子がフラッシュバックする。
血と髪は、入り口、次は隣の廊下へと続く扉の前、目印のようにポツリ、ポツリと落ちていた。
明らかに罠だが、彼は一直線にそのルート選び進み続け、たどり着いたのは大きな扉の前。
大広間……かつて宴を催す場として華やいだ場所。
その扉には血に染まった数枚の赤黒い羽と髪がベットリと塗付けられていた。




