ある男の走馬燈。
「ア、アルジュアナ様、奴らがきました」
無粋なタイミングで忌々しい、と言わんばかりの表情でアルジュアナはザインを睨み付ける。
すみませんと、小さくなりながらも前もって与えられていた命令に従っただけなのにと、ぶちぶちと呟く。
彼の獣耳もへにゃりと垂れ下がり寂しげな様子となった。
人造人間を多数建物の周りに配置しておいた。
それらが、一気に壊されるのを術者として感じ取ったのだ。
かつて経験したことが無いペースで壊され、驚くザイン。
驚愕の表情になる彼など気にもされず新たな命令が下る。
まず、お前が出迎えしてやれ、と。
次、しくじったら後が無いとも付け加えられる。
先ほどの件を暗に責められる。
己達の偉業に対して無知なる娘に諭し、娘がどれだけ栄光ある立場になるかを自覚させた上で素晴らしい儀式に身を委ねさせようとした。
それが失敗し娘は、逃げてしまった。
やはり、この偉大なる業績は愚かな者になど理解は出来なかった、と彼は内心溜息と共に自身の考えをまとめた。
そしてザインは、激情的な彼女がこれ以上の失態を許してくれるはずが無い事を知っていた。
過去に失態を犯した仲間がどうなったかを知っているからだ。
ある者は、実験と称して異界の狭間に閉じ込められたり、また、別の者は訓練の時に事故が起き魔法の業火によって骨まで炭とされた。
威圧感でかつて無い程緊張し、走馬灯が脳裏を過ぎる。
彼は、獣人国でもかなり高位貴族の長男として生まれ、最高の場所で学問を習い、魔法を学んだ。
そこでは、素質があり、神童として大切に扱われた。
しかし、13歳になり4番目の弟が生まれた頃、生活が一変する。
真面目な父が言われない汚職に巻き込まれ失脚、父は連行後二度と帰って来なかった。
それと同時に母と兄弟達で屋敷を追われる様に逃げ出しスラム街に住むことになった。
かなり荒れた街であった。
水や食べ物を得る為だけ、ただそれだけの為に犯罪が起きていた。
痩せていく自身の体、それ以上に幼い弟達は細くなっていった。
過酷過ぎる環境に母が狂い、ある日家に帰ってこなくなった。
そして、幼い弟から順に死んでいった。
最後の弟が死んだ時、彼は街一番の富豪の馬車を襲う。
手には錆びて朽ち果てそうな刀ひとつ。
ただ、襲ったタイミングが絶妙であった。
商人が取引用に手元においていた大きな魔蓄石が馬車にあったのだ。偶然手にしたそれで彼は初めて罪を犯す。
そして、そこからは生きていく為に落ちていく一方であった。
だが、彼に更なる転機が訪れる。
国境付近で山賊として生きていた時、ある馬車を襲うが返り討ちにあう。
魔法で初めての敗北。
潔く死を選ぼうとするも女に止めら偉大な計画に誘われたのだ。
しかも異国であるが高貴という立場の彼女が、死んだ弟達を悼み憐れんでくれた。
共にこの世を憂いを無くし、全てが平等になる世界を作ろうと……。
「命に代えましても……」
比喩ではない、本心。
脂汗を浮かべながら右手を胸にあて腰を落とし命令を受けた。




