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っふざけんじゃないわよ!

「本当にあの女に似てるわ……」

 頬に冷たい感覚。

 氷を当てられているかのような温度。

 振り払いたいも腕が動かない。


 ユーナは、長い階段の上に連れてこられていた。

 彼女の両手首は、床素材と同じ物で作られたかせめられていた。

 そして、その枷は天井より吊るされ両手を上げた状態で固定されていた。

 足は、地に着いているが同様に枷と鎖に繋がれている。

 その足の近くには最後まで握り締めていたネコのヌイグルミが無造作に転がっていた。

 動けないのを良い事にユーナに無粋に両手で触れてくるアルジュアナ。

 頬に触れていた指を舐めるように滑らせ首筋にそえる。


「憎らしい程に……」

 あと数センチで互いの顔が触れてしまう距離まで近づけ呪詛のように呟やかれる。

 息がかかりそうなほどの距離なのに不思議と吐息がかからない。

 触れてくる指からも生き物としての生気を感じない。

 まるで無機質なものに触れられているような感覚。


「今、殺して魔蓄石を取ってしまおうかしら……」

 さらに指を滑らせユーナの左胸に触れる。

 全身の産毛うぶげが逆立つ。

 愛おしそうに触れる、けれど相も変わらない冷たい指。


「お客様を呼んでいるの。 だから、まだおあずけ……」

 膨らみを堪能するが如く触れていた指を囁きと共に名残惜しそうに離した。


「客って?」

 ぼんやりする頭。

 けれど、ここで気を失えば相手アルジュアナに好き勝手されそう、もしかしたら二度と目を覚ませないかもしれないと思い必死に頭を使う。


「あら?起きていたの?」

 クスクス……と、笑ってユーナをみた。その目は、「暇つぶしに面白い玩具を見つけた」悪戯っぽく語っていた。


「素敵な余興ぎしきに以前お世話になった人を呼んだのよ」

 フフフ……妖美な表情。


「皆からは、黒騎士様と……親しまれているみたいね。彼を呼んだの、彼も貴女の左胸の魔蓄石ほうせきに惹かれてるみたいだから」


――レイヴァンも魔蓄石狙いだったの!?

 真っ青になった顔を震わせるユーナ。

 その反応がさぞ快感だったアルジュアナがさらに続ける。


「本人は石に気づいてないみたいね。 でも、彼ほどの魔法使いだったら惹かれているわ、この石からみ出る魔力に。 甘美で甘酸っぱい感覚、そう何も知らない人なら恋と勘違いしちゃうかもね」

 残念ねぇ、なぐめる様な目でユーナを見つめる。


「貴女の中にある育ちすぎた石は、とても強力。 私や彼のような強い素質を持つまほうつかいだと、大体の貴女の居場所を感じ取って分かっちゃうの。 だから、見つけるのは簡単だったわ。 彼もそうやって貴女を見つけ出すかもしれない。でも、念の為、道先案内人も用意したの」

 チラリと階段下の広場に居る人の良さそうな顔をした初老のリシュルの顔を見る、アルジュアナ。

 それに年齢を感じさせない優雅なお辞儀を返す。


「この近くまで部下と思われる者を尾行をさせました。 もうしばらくすれば、こちらに彼らが来ると思われます」

 思ったより若く通る声でこたえた。


「彼には以前ここでお世話になったからね。お返しをしてあげないといけないの」

 その為のあなたと、付け加えた。

 鳥肌が立った。

 脅迫されるわ、言い寄られるわ、挙句にプロポーズされるわ。それら全てこの石のせいであって……すべて石に向かって言われていたわけで……私に向けての言葉ではなかった。

 そして石に惹かれた彼が、ここに来てしまう。

 自信満々なオーラだしまくりの彼女らの事だ、用意周到に悪質な罠を仕掛けているだろう。


「えっと……アルジュアナさん?でしたっけ?」

「何かしら?」

 話をする元気があったの? と、言わんばかりの顔でこちらに振り向く彼女。


――ピチャツ

 その彼女の綺麗に化粧が施された額にしずくが当たる。

 まるで雨漏りがそこにだけ当たったかの様な、一滴。

 古いとはいえ立派な石造りの建物、もちろん雨漏りなどしていない。


「オ……オマエ……ッ、アルジュアナ様にっ」

 階段下の少し離れた場所から全てを見ていたザイルがわなわな振るえ最後まで言葉になっていない。

 リシェルも驚きのあまり声を出していない。


「っふざけんじゃないわよ! あんたら私の魂をチキュウから引っ張ってきた上にさらに因縁だ、なんだで他の人も巻き込むなんて!!」

 自由に動けたなら踵落としか、木材投げつけるか位していたけど、(アルジュアナにとっては幸いにも)拘束されて出来ない。


「女々しいのよ。昔の事ひっぱりだ……グッ」

 罵詈雑言を続けようとした彼女の口は、怒りで醜く顔を歪めたアルジュアナの右手によって塞がれた。


「ワタクシの顔に唾を!!!」

 悪鬼の如く険しい顔でユーナの首に左手を持っていく。


「今すぐ殺して取り出してやろうかしら!!」

 氷点下と思われるほど冷たい手で頚動脈を押さえる。

 左手に力を徐々に加えながら右手をユーナの口から左胸に移動させる。

 猛禽類の様に尖らせ赤く塗られた爪を左胸に当て、グッと突き刺す。

 少しずつ金属のように冷たく鋭い爪は凶器となり突き刺さる。

 滴がポタリ、ポタリと、流れる。

 それは、床に落としていたヌイグルミを赤く汚した。



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