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orzな気分。(2)

 脱力ポーズから未だ、脱せぬユーナの状態。もちろん気にされず、急にランプや天井のシャンデリアが輝く。

 数秒ほど、急な明かりに目をくらませ目の前が真っ白になるユーナ。

 次第に慣れてきて最初に目に入ったのは、鏡のように綺麗に磨かれた石床であった。

 顔を上げれば、高く華やかな天井、煌びやかな装飾。

 今までの部屋や廊下とは違う状態、使われていた当時のままの様であった。


――体育館4つ分かな?

 とりあえず、(声の主は見たくないので)周囲を観察する。

 広々とした空間。

 葡萄の房のようにランプが配置され豪華なシャンデリア。

 そのシャンデリアのランプの光の中心に黒い小さな石が見える。

 魔蓄石、この仕掛まほうけで明かりをともしたのか。

 って事は、火の魔法が使える人間種族も敵にいるのか……。

 非常に危機的状況だが、あまりに不運が続きすぎてこういった状況のほうが冷静になれた。


――あれ?そう言えば、声の主が前の男より高いような……。

 典型的展開だったし、台詞的に先ほどの男かと思ったが、そうでは無いらしい。

 しぶしぶそちら方面をみるとそこには、女性が居た。

 赤い絨毯のかかった長い階段の上に居た女性。

 濃い茶色の髪を複雑に結い綺麗にまとめシックな黒の細いレースで気品を出していた。

 着ている物は、グレーとブラックが主として使われているも地味になる事無く、むしろ大人の華やかさを醸し出したドレス。

 30台半ば程か……下品にならない程度に襟ぐりがあいたデザインのドレスから見える鎖骨が艶やかに色っぽく浮かび上がっている。

 耳や首、組んでいる両腕、しなやかな指には惜しみなく宝石の付いた装飾具アクセサリーいろどりかなり裕福であることがうかがい知れた。

 このたてものの主人であるかのよう、威圧を感じるほどの笑みを浮かべこちらを見ている。

 そして、こちらを見ているその瞳は銀、冷たく輝いている。


「え~っと、人違いじゃありません?」

 立ち上がりながら念の為、駄目元で聞いてみる。

 だって、さっきの男と違う人だし、ね?


「面白い事を言う子だね。あの女によく似た顔立ちにあの人と同じ髪色。

 間違いないわ」

 愉快そうに目を細め、口角を軽く上げる。


「貴女がこちらにむかう様、ワタクシがさせたのだよ。ザイン、ご苦労であった。」

 組んでいた腕を解き、何かを呼ぶように手招きをする。

 すっと彼女の後ろから現れたのは、先ほど縛ったはずの男であった。


「あーっ、ハゲ頭に猫耳の!!」

「黙れ!!!!」

 ザインと呼ばれた男が即、叫ぶ。

 この世界では、人間種族の地域で生きたユーナ、今まで獣人に出会った記憶は無かった。

 獣人といえど歳は取る。

 なので老若男女、赤子から老人まで色々な歳で様々な外見の獣人がいるのは当たり前である。

 しかし、前世チキュウのアニメやゲームで見たことあった獣耳といえば、若い男女位しか見た事が無かった。

 中年ももう後半に差し掛かった、髪の毛が無い男性の獣耳は彼女にとってあまりに衝撃的で思わず叫ぶ。


「ったく、要らぬ手間を掛けさせやがって。アルジュアナ様が手を貸して下さらなければどうなった事やら……。さぁ、ナイフを返してもらおうか」

 もう、隠す必要が無いと思ったのか被っていたフードを取り払いこちらにむかいニヤリと、笑み浮かべると階段を一歩一歩、踏みしめ降りてくる。

 危機的状況でシリアスなシーンのはずなのだが、雑念が頭をよぎる。

 フードから出てきたツルッパゲに赤茶色の猫耳が生えている男が真面目に言っても何だか締りがない。

 頭部ツルツル、猫耳フサフサ。

 頭がハゲでも耳の毛は、眉毛とか、まつ毛と同じでハゲないんだ、と思わずユーナは感心してしまう。

 いやいや、今は、それ所ではない。

 目ぼしい武器がこのナイフ位しかない現状、たとえ魔法が使えなくても純粋に斬る武器として手に置いておかねばと慌てて気持ちを入れ替え、握る手に力をいれる。


所詮しょせん、お前には扱えぬ品よ」

 長い階段を歩き終え両手を軽く広げこちらに返すよう促しながら歩いてくる。

 雰囲気に気圧けおされ思わずユーナは、一歩後ろに後ずさる。

 そんな彼女の背に当たるは、先ほど閉じられた扉……ではなく、人の良さそうな顔をした初老の男の体であった。


「っいつの間に!?」

 唖然、驚いて声を上げ、距離をとろうとするも、簡単に後ろから羽交い絞めにされた上に持ち上げられる。背の低いユーナはあっさりと足もつかない状態にされてしまう。

 老人とは思えない力で、締められる。

 足をバタつかせ何度か蹴りを入れるも以前チンピラのときのように逃げ出せない。


「リシュル戻っていたのか」

 ザイルが、ニタニタとしながらユーナに近づき、協力感謝と、リシュルと呼ばれた男に礼を述べながらナイフを彼女から奪い取った。

 そして、数歩そこから離れ、距離を作ると詠唱をはじめる。


拘束蛇発動サーペント・モーション

 ザイルは、ナイフをかかげたかと思うとスッと床にナイフを突き刺す。

 まるで柔らかい物に刺さるかの如く柄まで床に呑み込まれる。

 すると、ナイフを刺した床から無数の石の生物発生し蛇行しながらユーナにまとわりつく。

 あっという間にリシュルよりユーナの体は剥ぎ取られ、うごめく石の蛇にその身を飲まれてしまう。

 石の蛇によって全身をまさぐられ不快感を感じ身を捻り逃れようとするもビクともしない。

 荒波に揉まれている様な激しい動きの状態で目も開けず、呼吸も出来ず、成すすべがない。

 窒息で意識が遠退きそうになった頃、激しい動きが止まった。


「いらっしゃい」

 ぼんやりとする意識、かすむ視界。

 次第にはっきりとしてくる。

 はじめに見えたのは間近で妖艶な笑みを浮かべるアルジュアナであった。


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