怒ったら石の床にも剣を突き刺せます。(2)
――シュッ
急にスッと風が流れ……一息置いて夫人の悲鳴が上がる。上質な絹で作られた紫紺色のドレスの袖に赤いシミが出来ている。
「……な、何をなさいます!!」
妻の肩に出来た傷に驚愕しながら驚き声を上げたのは、オーナー。唖然とする老人。そして、周りに居た野次馬もざわめきを強くする。
「痛そうだな。まず、この女に痛み止めを打ってやれ」
斬った犯人、レイヴァンが無表情に言い放った。そして、やらなければ今度はお前の首を斬ると、付け加え刃を老人の首に沿える。
「……ッ」
苦虫を噛んだかのような顔を一瞬する老人。が、次の瞬間には、手元にある注射器とメスを乱暴にけれど、的確にレイヴァンに向けて投げつける。難なく避けるがその隙に老人とは思えない速さでその場から逃げ出す。
野次馬達を器用に避け、窓から外へ。
その一瞬の間にレイヴァンは、常に後ろに控えていた従者へ目配せをする。タイトなスカートであるにも関わらず従者は、俊敏な動きで追いかけはじめた。
それを確認すると今度は、蒼白になった夫人へと刃を当てる。
「誰に頼まれた?」
「な・・・何のことでございましょう・・・?」
問いに対して理解が出来ない、無関係であると戸惑いながら答えるが、問いただしている方は納得はしなかった。
「扉に細工をしたのはお前だろ、誰の指示だ?」
次の返答しだいでは、斬ると付け加えた。
「ヒッ・・・・名前は分からないわ。獣人だったわっ。お金を渡されて、案内と扉に細工をするだけで良いと言われたの!」
悲鳴のような声で答えた。
「だって、あの少女キメラなのよ! 悪魔の様だったわっ耳や翼がいっぺんに付いていてっ。別に下賎なキメラがどうなったて構わないと、思わない? ね!!」
周囲に同調してもらおうと醜く目を見開いて周囲に訴える。野次馬達の中には、「キメラが何故この宿に? 汚らわしい……」「同じ建物にいるだけで嫌だわ」等口々にする者が現れる。
――ギンッ
黒い剣が振り下ろされる。それは、夫人のほんの数ミリ横、硬い床に剣が真っ直ぐ突き刺さる。
夫人は、だらしなく口を開いたまま恐怖のあまりその場に倒れこんだ。
スッと周囲も静かになる。
動けば自分にその刃が向くのを黒髪の男から感じたからだ。




