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怒ったら石の床にも剣を突き刺せます。(1)

「レイヴァン様、彼らやこの組織じけいだん如何いかがいたしましょう?」

 取調室を出ると上品な白のブラウスにこげ茶色の落ち着いた色のジャケットとタイトなスカートを身につけた濃緑の髪の従者が控えていた。


「好きにしろ。」


「わかりました。」飾り気も愛想も無い、用件だけの事務的なやり取りで二人の会話は終わりレイヴァンが先に自警団の建物を従者もそれに従い続く。

 昨日捕まえた3人組と町の領主は、むじつだった。ユーナを村から誘拐した事件に関してだけだが。

 過去に殺人、恐喝、窃盗、暴行等あげればきりが無い程の罪があり裁判にかけるまでも無く一生牢獄から出てくることは出来ないレベルの犯罪者達であった。


――まぁ、出てこれ無いほうが幸せだろうけどな。

 さかのぼる数時間前、自警団の取調室で行われた行為を経験すれ誰もがそう思う状態になるであろう。


――無駄な時間を過ごした。

 今後、自分が自警団を訪れた事で起る劇的な改革も彼にとっては興味の無い事なのである。気になるのは、ただ一つ昨日知り合ったばかりの少女、ユーナの事。


――自分が再び人に興味を持つとは……

 あらゆる種族の容姿を小さな体に閉じ込めた辺境の村でひっそりと育てられた少女。王都にいた頃の女とはまったく違う気性の荒い猫のような……と、言ったら彼女は怒るだろうか。見ていて面白かった。かつての妹のように可愛がった赤い瞳の少女とダブらせてしまう。


 彼女に会いたい、一時でも離れたくない、ずっと傍にいて抱きしめていたい、許されるなら拘束して大切に閉じ込めておきたい・・・想いは募るばかりである。


 無駄な時間を過ごした自警団の建物をあとにすると足早に泊まっていた宿屋に戻る。行きは、明るかった空が帰る頃には、どんよりとした厚い雲が空を覆っていた。雨が降れば、王都へ戻る出発が遅れが出てしまい

嫌だな、と思いながら……。


 蔦草に似せて作られた繊細ながらも丈夫に作られた宿屋のゲートまで辿り着くとそこに違和感を思える。常にいるはずの者が居ないのである有るのは、赤い血溜まり。


「これはいったい……?」

 後ろに控えていた従者がギョッとした顔で呟く。それに答える事もなく、レイヴァンは建物内部に走り込む。


 豪華に広く作られた玄関では、数十人の従業員と客達が幾つかのグループを作りながらヒソヒソと歪な円を作っていた。

 その円の中心には、宿屋のオーナーと昨日ユーナを案内したオーナーの伴侶である夫人、そして、腹部から血を出して横たわっているスケティナが居た。

 野次馬には目もくれず、一直線に彼女の元にレイヴァンは駆け寄ると、「ユーナはどうした?」と、冷たく問いただした。

 失血で青白くなったスケティナの唇は微かに何かを話そうとするも


「ヘヤノユカニ…ノミコマレ…ゴーレムガ・・・トビラニ・・・サイク・・・」

 荒い呼吸と共に出される言葉は、人に通じるレベルにはならなかった。

オーナーがこんな重傷人に急に何を、といぶかしげにレイヴァンを見るが気にとめず、もう一度問いただす。


 血と泥で服を汚した夫人が見かね説明をする。


「物音がしたのでお部屋に伺ったところ廊下で彼女がおりまして……止めたのですがココまでご自分で歩かれ……そして、倒れてしまいました……」

動く彼女を止める事が出来なかったのを悔やんでだろうか……悲痛な面持ちで話した。

 そのやり取りの中に一人の人の良さそうな初老の男性が割って入ってくる。


「宜しければ、処置をいたします」

 手にしている鞄を開きながらスケティナの横に座る。


「あぁ……助かります。今、町医者を呼びに使いを出しているのですが、まだ帰ってこないので……」

 目に涙を溜めながら夫人が答える。

 気候の良いこの地方に療養する重い肺病の貴族に付き添いとしてこちらに来た。医師であると説明をしながら 慣れた手つきで極薄いピンクの液体が入った注射を出す。「痛み止めです。」と、処置を開始しようとする老人。

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