遊ぶなら子供がいいわ。(2)
大柄な男の背丈ほどある人造生物は、 ゆらりと体を揺らすと 重たそうな体に似合わないスピードで彼女に襲いかかった。
重たい金属音が部屋に響き渡る。 スケティナは、クロスさせた円月輪でそれを受け止めるが、 重い一撃に腕が痺れた。片手で受け止めたなら腕がへし折れたかもしれない力。
「チカラ…お強いのね」
なお力押しをしてくる人造生物に語りかけるも喋る口が無いからか
そもそもそんな知能など無いからか 何の反応も無い。
けれど、構わず話しかける。
「でもね……ゴリ押しばかりする男は嫌われるわよ!」
スケティナは、一瞬力を抜き後ろに重心をずらす。 そして、わずかにバランスを崩した相手の左へと体を滑り込ませながら腹を右手の円月輪で斬り裂く。
スッパリと斬れ上下に分かれる体。グニョリと蠢く気持ち悪い泥の内臓が見えるがすぐにそれらはくっつき元に戻る。
「腹には、無いのね」
術者の姿が見えないと、言うことはコイツの核となる魔蓄石さえ壊してしまえば動かなくなるはず……。
「さて、何処かしらね」
これだけ大きな人造生物を動かすには、それなり……握り拳大程のものだろう。
それを見つけ出し壊さなければならない。ジリジリと互いに間合いを詰めながら鋭い眼光を相手へと向ける。
今度は、スケティナから仕掛けた。先ほどまでのん気にユーナが食事をしていたテーブルを人造生物に向かって蹴り飛ばす。けれど、それは相手によって容易く一撃で真っ二つ割られる。
物理的に相手にダメージを与えれ無かったが 狙いは、隙を作ること。
相手がテーブルに気を取られているうちに後ろに回りこんだ彼女は、首と頭をいっきに切り刻む。
――ズシャリ
と、飛び散る泥が周囲へと散らばる。散らばった泥は、ウネウネと動き元の体へと戻ろうと這い回りやがて砂となり動かなくなった。
「なるほどね……核のある体から離れた泥は動かせないのね。」
首から上が無くなった人造生物、けれど、無くなった事について気にする様子も無く再び彼女へと襲い掛かる。
そして再び、響き渡る金属音。 拮抗した鍔迫り合い、 再び間合いを取ろうとスケティナが動こうとした瞬間 人造生物の腹から出てきた数十本の触手が彼女の両腕にまとわりついた。
「――ック。」
ウニョウニョと動き、あっという間に両手の動きを封じられる。彼女の顔に焦りの色が浮かぶ。
――カチリ
剣を上段へと構え、スケティナ目掛け振り落とそうと狙いを定める。
現状の危機に目を見開き恐怖に震え握っていた円月輪が右腕から離なれる。 床へと向い落下する円月輪。
――ザシュ
飛び散るどす黒い液体。 そして崩れ落ちる……泥の塊。
スケティナは、円月輪が床に着きそうになる、その瞬間、曲芸師のように器用に右足先でそれをすくい取り軽く一周させると人造生物の左胸へと投げ付けたのだ。
(一か八かの賭けであったが、ビンゴ)
七色に怪しく光る魔蓄石が砕け散った。
「ワタクシ、足でも扱えますの」
クスッと妖艶な笑みを浮かべながら言い放った。
「余計な時間をとられたわ。急いでユーナ様を探さなければ」
円月輪を拾い上げると徐々に上から崩れていく泥の塊に背を向け出口に向い足を出す。
鍵のかかった扉。 今度は初めから鍵に触れず、円月輪で美しく彫刻された木製の扉を切り刻み自ら出口を作り上げる。
そうして、廊下へと出た直後――
彼女の左脇腹に錆びた剣が突き刺さる。
「!?」
振り向けば、人造生物であった泥の塊は崩れ去っていた。けれど、それの左腕だけはまだ形を保っており今まさに彼女を傷付けるに動いていた。
「まさか、2つ使われていたの!?」
剣についている腕の中央を円月輪で斬ると現れたもう1つの小さな魔蓄石。
痛みで表情を歪めながらそれを斬り壊す。
「シツコイ男は、もっとダメよ・・・。
やっぱり・・・遊ぶなら可愛い子供がいいわぁ・・・。」
なんとか壁にもたれながらそう、呟いた。




