遊ぶなら子供がいいわ。(1)
ユーナの半泣きの悲鳴が響いたその直後、彼女の足元、石造りの床がドロリと溶け始めた。
「ぇ?何これ?」
必死に逃れようとするも蟻地獄に足をとられたかのように動けない。
助けを求め手を伸ばす。
「ユーナ様!?」
スケティナは、狙っていた獲物が床に呑まれていくのに驚く。けれど、それは一時の事、赤い唇をかみしめ凛とした表情で走りより「こちらに御手を!!」と、手しか見えなくなったユーナに右手を差し出す。
しかし、間に合わない。虚しく空を切っるスケティナの手。ならば、と蟻地獄のような床に己も入り助けに行こうとするも歪に固まり拒まれる。
(――チッ)
先手を打たれるばかりである。踵を返すと部屋の外へと続く扉へと向かう。ここは2階、すぐ真下の部屋に連れて行かれたに違いない、と判断したからだ。
繊細な蔦の模様が描かれた扉の鍵に手をかけるがおかしい。鍵が開かないのである。
(――何か細工をされている)
かなり計画的に襲われた事を彼女は理解する。さすれば、相手が次にどうでるか……
(――運良くなめられていれば、監禁して終わりとしてくれるのでしょうが)
彼女が振り返ると黒い人影がゆらりと立っていた。
ユーナを呑み込んだ床から沸いて出てきたのは、人のように立って、人のように服を着て、人のように左手には錆びついた剣を手にしているイキモノ。
けれど、顔は泥が渦巻いており、時折、腐敗した沼のように泡が浮かびだしては、弾ける。人造生物である。
「あらら……ワタクシもちゃんと戦力として見て下さってるのね」
怯える素振りも無く、むしろ、オモチャを与えられた子供の様に喜びの笑みを浮かべながら膝下丈の黒いメイド服のスカートをたくし上げる。徐々に姿を現す脚。
スラリと伸びた滑らかな脹脛。肉付きは少ないが、痩せすぎているわけでもなく程よく筋肉がついた美しい太股。あと数ミリで下着が見えてしまう際まで上げると見えてきたのは、綺麗な足には似つかわしくない黄金色の輪。両腿に備え付けられているのは枕を真っ二つにした円月輪であった。それらをスッと手にすると静かに構えた。
「好みじゃないけど、遊んであげますわ」




