よくある昔話とあまりない性癖。
「むかし、ある国の城へと勤めることになった少年が居ました。
15歳の春を迎え成人した彼の初めての仕事は、お城で暮らす小さなお姫様を警護する事でした。
しかし、そのお仕事は警護とは名ばかりで遊び盛りの子の子守り。
鍛錬の結果を活かせることも無くやんちゃでおしゃまなお姫様の相手。
友の同僚たちは、嫌気をさしていましたが不思議と少年だけは楽しんでいました。
そんな日々がもうすぐ1年経とうかとする頃、悲しい事件が起こります。
城に悪い魔法使いが来たのです。
魔法使いは、お姫様を殺しに来たのです。
警護をしていた兵士達も必死で戦います。
けれど、魔法使いは強く、ずる賢く、圧倒的な強さで兵士達を骸の形無きまでに殺していきました。
ひとり、またひとりと命を落とし最後に残ったのは、お姫様と少年の二人。
彼も必死に戦いますが、守れず、気づけばお姫様の姿も消えていました。
一人生き残った少年は、無力な自分を嘆き、城を去ります」
子供に絵本を読み聞かせるように抑揚をつけながら優しく物語を奏でる。ついユーナも聞き入ってしまう。
「それ以来、数年、国は荒れました。
悪い魔法使いを倒そうとするも歯が立ちません。
人々は怯えながら暮らしました。
ある年、一人の騎士が立ち上がります。
あの時生き残った少年です。
彼は、一心不乱に己を鍛え国一番の騎士となっていたのです。
一人で魔法使へと挑みました。
戦いは、三日三晩続いたそうです。
大地は揺れ 空は稲光が走りそれはそれは、凄い戦いだったそうです。
長い戦いの末、騎士は勝利します。
国は平和となり 人々は喜び
王は騎士を英雄とし皆であがめました。
おしまい……」
「なんか身勝手……」
「どうなさいました、ユーナ様?」
ポツリとユーナがつぶやいたのにスケティナが反応した。
悪者を倒して国は平和になってハッピーエンドだけど 騎士となった少年は、ずっと一人。仇をとってもらえたら死んだ仲間達も浮かばれるのだろうか……。 私なら人と関わり、友を作り、恋をし、家庭を築き 幸せに暮らしてくれた方が、英雄としてあがめられるより嬉しいと思う。
そう、思うのはチキュウでの記憶があるからだろうか……。
「えっと、なんでもない。どこの国でも英雄伝ってあるんだなぁって。
騎士、カッコイイなぁー。」
初対面の彼女にそこまで深い話をするのも気が引けて無難な事を口走る。
「えぇ……騎士は、黒騎士の称号を与えられとても皆様より祝福されたそうです。」
目を細め微笑みながらスケティナは答えた。
「さて、ユーナ様。宜しければ、御髪を整えませんか?」
ブラシを手にしたスケティナさんは提案した。
着替えは済ませたけれど長い髪は、そのまま背中に流しただけであった。
別にそのままでもいいかなと思っていたのだけれど、どうもメイドさん的にNGみたい。
室内でもキチンと結い上げているのが上流階級の皆さんの主流なのかな。
普段は自分で簡単にまとめるのだが、前回、着替えを断って気まずくなったので
彼女に任せることとした。
「柔らかく綺麗ですね。 まるで上質な絹糸のよう……。」
ブラシをかけながら彼女は褒めた。青みがかった銀髪は確かに自慢であったが、
猫のような耳が人目に晒されるのは、まずいので常に耳と一緒に隠していたので、人に褒められるなんて久しぶりで何だか嬉しい。
女ってやっぱり髪は、褒められて嬉しいポイントだし☆
「この髪色・・・現国王様と同じ色ですわね。希少なお色をこの手で触れらるなんて光栄ですわ。」
さらに髪を整えながら「フフフフ……」ルージュの口紅をした色っぽい笑みを漏らす。
(――髪フェチなのかな?)
妙に髪を丁寧にブラッシングするので怪しいような。
「お人形さんの様な大きなお目目に
中央にちょこんとのった小さなお鼻……
成熟する前の愛らしい可憐な口……
陶器のようになめらかな白い肌に
薔薇色のほっぺ……ウフフフフ……」
「!?」
後ろからブラッシングをしていた彼女の手が急に頬を撫でる。
「……もしかして、女性が好きなタイプ!?」
身の危険を感じ椅子から転げ落ちるように立ち上がると部屋の隅まで逃げる。
「う~ん、半分正解」
おしいわ、まるで教師が生徒に教鞭を取っているかのように答えた。
「女の子でも男の子でも可愛い子ならどちらでも♪」
「!?」
いや、人の性癖はとやかく言わないのだけれども自分にその趣味が無い場合は、固くお断りさせていただきたい。
「”女の子”って……私はもう16歳なので、圏外でしょ!?」
「14歳以下にしか興味がないのですが……可愛いお顔立ち見てたら圏内になっちゃったのよぉ♪」
女豹が獲物を狙う目つきでジリジリ近づいてくる。
「村から出た途端、こんなのばっかり~」
ユーナは半泣きで叫んだ。




