9話 ~ふたりのAKIKO~ Fast FAINAL
卒業旅行では、バス3時間と電車1時間、徒歩15分で行く山野山スキ―所に行き6時まですべり、6時半から近くのホテルで夕食となる。
バスは補助席を使って横に3人並び隣には幸実、洋子が座っている。
カラオケを生徒ではなく先生がしたいと言いだし演歌が10分ほど流れ、その次にこの世界で有名なアイドルの歌をひとり一曲づつ唄うことになった。
私はふたりと同じ曲の下パ―トを担当したりCMで流れているちょっとした歌をうたったりしたのだけれど、ロックやジャズ、ヒップホップのジャンルなんかにはすごく負けた。
でも、とても楽しい時間を送れたと思う。
私の運命がゆれ動いたのは、次の時間の時だ。
私達が予定している電車の時間と、私達が到着した時間が20分も速くなってしまった。
でも売店でお茶を買うといって先生があわてて移動したものだから、私達もあわてて売店へ移動した。
修学旅行だから誰ひとりとして離しちゃいけないだろ、という男子の提案でそうなったわけで、時間が速いとかゆっくり行ってもお茶は買えるだろういう普通な常識は、私達には通じなかった。
地下鉄の階段を足をばたつかせておりる。
「きゃああっ!」
その時、私の足がバナナの皮をふんだようにつるりと滑った。
叫び声とともに天井が遠くなり、尻と階段の距離が近くなって、後頭部をすべりどめで強く打った。
視界が暗くなったと思ったら、私は頭からゆっくりおちてるような気がした。
スロ―モ―ションの世界のような、そんなびやけた世界の中に私が落ちていく。
風はないけど、頭が少し重いからそう思った。
ぼやけた光がのぼってきた。
その光に包まれた、ミニスカ―トの私がのぼってきて私に笑いかけた。
「非凡……、いや。不平凡よね。
非凡は、普通よりすぐれていること。不平凡は、平凡を否定して
それを根に持つこと。そうよね?
貴方の世界も結構面白かったかな。また来ちゃおうかな。」
「あなた、誰――?」
「中黄 あきこ。」
「私?」
「不平凡な貴方なら、今の世界がどうなってるの?
なんて疑問にならないわよねっ。
だって、私もそうだもん。
そいじゃっ。もう話せないみたい。ばいばいっ。大好きっ。」
声が暗闇の中で水のような、しんなりとこだましていた。
私は、陽気に笑いながら走るようにのぼっていった。
首をかしげた。
大好きだなんて、どういうことなのだろう?
今でもその答えは分かっていない。
「おはようございます。時刻が7時50分になりました。」
私の父は、中黄 誠といって母を本気でくどき結婚にまでいたったそうだ。
そんな母は、中黄 彩といって「料理」と「洗濯物を干す」名人だ。
私は、そのふたりから生まれた中黄 あきこといって不平凡を愛するただの女だ。
学校の通学路で、太陽のシャワ―をあび、まぶしく思いながらうつろに歩いている。
日直の当番で少し早くでかけたものだから、人はそんなにいないのだけれど私の口角が上がっている。
何故なのかは、これを見ている人にお任せするのだけれど、私のクラスメ―トはいたって普通、いたって普通の容姿と性格なのだけれど、その内面(こうしたいという野望)を外へと出す生徒がなんだか多くなってきた。
なぜかしら?
ロングへア―に戻った私は、不平凡にいつも訴えかけている。
同じ太陽の光の下に生きているのに、なぜこんなに違う人生が用意されているのかと――。
次で最終話かな。