8話 中黄 あきこ
ちらり、と職員室をのぞく。
学校生活にも慣れてきて不平凡な生活を自分でもなかなかエンジョイしていた。
髪の毛はロングヘアをツインテイルにして、水色の大きいシュシュを友達の洋子と幸実とおそろいでかってつけたりして絆もだいぶ深まってきていた。
今日は卒業旅行。
卒業式が昨日行われ、3年間をこの学校で生活したように泣いていた。
卒業生入場の時中島君が来るかもしれないぜ、と洋子に言われてうっそだあと返した。
結果的には姿すら影すらも見せないまま終了してしまった――。
昨日はこなかったけど、卒業旅行の途中から合流するという報告が入ってびっくりした。
「会えるのかぁ……。」
さきほど、担任の青下先生が中島と声を上げているのを聞いてぼんやりしはじめた。
あの時あえなくてしんみりしていたけど、突然会えるなんて聞いたらどう反応していいのかわからない。
「あっきぃ、中島と会って告白されるんじゃねぇの。」
「その時はわいがおことでもひいて盛り上げますえっ。」
「ことなんか駄目よぉ、爆弾が雑貨屋に売ってるわ。」
「ここは真面目にクラッカアを!」
「どうわっ!」
さっきまでの静かな廊下がクラスメ―トであふれかえった。
いきなりの登場に奇声と尻もちが私の体をゆらした。
「ななな何でいるのよっ。」
「決まってるじゃない。今日は修学旅行。
そんな時に大事なクラスメ―トがひとり消えたら探しまくるわよっ。」
「洋子! 幸実! 私職員室行ってくるって言ったじゃない。」
「え、マジで? 私1秒前のことあまり思い出せないのよね。」
「もうっ。」
私は腹が立ってふたりをしかりつけた。
今日も水色のおそろいのシュシュをちゃんと身につけてくれて、少し嬉しかった面もあるけれどそこは卒業旅行最終日に言おうと思ってふせておいた。
「あっ。あっきぃのパンツ今日は緑のショ―ツだ!」
「違うわ! ショ―ツタイプじゃないわよっ。」
「ならブリ―フ?」
「そんなやつはかないわっ!」
のぞくんじゃないわよ、なんて普通の答え私は持ち合わせていなかった。
そう答えたら全てが普通になってしまう気がして、頭の辞書からすてておいた。
「うんみゃあ、お前等駐車場に集合ぜよ?
廊下で何雑談してるげや。」
「キャ―! 先生今日は綺麗な和服でございますわねっ。」
「記念写真は俺のもんぜよ。ほな、行くで。」
青下先生は大正時代の学生を思わせる古典的な服装にいつも身をつつんでいた。
後姿はちょんまげで、前には「生」とバリカンで器用にそってあり、人一倍情についてあつく、くどくどしく青春を語る新米教師だった。
そんな先生は、足のない幽霊だった。
学校の帰りにハンバ―ガ―ショップによって3人で会話していた時、幸実からあの先生幽霊だから、自分の墓場を掃除しちゃってるの見てね――。
その時も私はひっくり返ってしまった。
確かに、歩いている時頭が動かないのを見ると幽霊だと確信できる。
「そいじゃ、行ってきまあす。」
卒業旅行が始まる……、そんな単語に胸を躍らせていた。