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6話 お別れ会だなんて

 送ってもらったから、家はすぐに見つかったし私の家があったことにも少し驚いていた。

 それも私の家より豪邸で、畳10畳ほどの庭があり色とりどりのチュ―リップが大半をしめ隣には縄に縛られた白く毛のながい雑種犬がいた。

 本当の自分の家は狭いマンションで父と母は夜の12時になっても帰ってこない日が多い。

 だから、めぐまれている自分がいることに「いいなぁ。」と思った。

 だが、そう思えるのはその時だけで自分の部屋に入るとベッドと勉強机、それからカ―テンが皺だらけになってつるされているだけだった。


 この世界の私は無欲なんだな。


 私は、勉強机に座り味気なく何かの参考書を手にとってパラパラとめくりはじめた。

 そこにはたくさんの複雑な数式や、見たこともない漢字が載っていた。

 この世界の学問は、私の世界より難易度が高いことに気づきうんざりしていた。

 また、物憂いになって勉強机でうつぶせになってしばらくそのままでいた。

 何も考えられなくなるのは、「ここで暮らさなければならなくなるのか?」というネガティブな発想に身ががちりとつつまれてからだ。

 父と母は外見がそっくりでも気品が違うからすごくぎこちない。


「はぁ……。どうすんだろ、これから。」


 私は、ひきだしをあけて紙を一枚とりだした。

 さも当たり前のようにここに真っ白な入ってるような、そんな記憶が頭の中に入っていて今では不思議に思っているが、その時は別に何も思わなかった。

 颯爽と鉛筆を握り、紙に「中島のお別れ会」と書いてその下に2月25日金曜日と小さく書いた。

 中島をイラスト系で書こうと輪郭を描いたが、目やホクロ、髪型も体型も知らない私はふとペンを止めて唇を2,3度ひとさし指でたたいて頭を悩ませていた。

 本棚にちらりと目をやると、真っ赤で分厚い本があり背表紙には「中学生のアルバム!」とでかでかと書いてあるのに気付いた。

 マリオネットにされたかのように立ち、アルバムを一枚一枚をぱらぱらとめくって中島君を探し始めた。


 少しめくると「私」と「中島」のツ―ショット写真が早くも見つかった。


 黒板に「中島」と「あっきぃ」と書かれてそこの私達が生徒会役員の札を腕につけて立っていたのだ。

 私はそんなに有名だったのか、と思うより先に中島君をどこかで見たのを思い出して記憶をたぐらせてみた。

 保育園の頃、小学校の頃、合同授業の時、避難勧告がでた時、――違う。

 小学校の時父の転勤で3年間長野県へと行っていた時、近所の仲間として毎日顔を合わせていた。

 確か、初めてあった時は「中島 三郎」で今は離婚がキッカケで「谷田部 三郎」になっている。

 年賀状を送ってもらって知っているだけだけれど、確かそんな感じの名前だ。

 この世界では離婚していないのか、と思うと少し安心した。


「中島君かぁ――。

 会えるのはいいけど、すぐにお別れだなんて嫌だなぁ……。」


 同じ人とのもう一度の別れに私の気持ちは、何の例えようもなく不思議で、悲しかった。

 ベッドに転がり込んで中島君と遊んだ時のことや、授業中にテストの点で競っていたことなんかを思い出すと今すぐ会いたくなってきて、でも中島君が私を好きだなんてことを混ぜると付き合いにくいような、微妙な関係だなぁなんて思っていた。

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